永泉の手を引いて、双ヶ岡に、登る。

 

冬枯れの山には、鳥の声がこだまするばかりだが、つないだ手のひらのぬくもりが、泰明を幸せにする。

 

やがて、先を行く泰明が足を止めた。

「ここだ」

「あ・・・」

それは、見事な寒桜だった。

春の盛りの桜のような華々しさはない。しかし、細い枝に精一杯の花を咲かせ、そこだけが、ほうっと明るくなるような花。

 

「これを見つけたとき、おまえのようだと思った。・・・おまえが、これを見て喜ぶと良いと思ったのだ」

「ありがとうございます・・・嬉しいです」

泰明は、寒桜を見上げる永泉の髪を撫でた。

そして、邪魔をしないように後ろから、そっとからだごと抱き寄せる。
髪から香るのは黒方。

しかしそれは、永泉が常にまとっているそれとは微妙に違う香り。

それを、少し悲しいと思う。

自分は、こんなにも永泉を思っているのに、彼は、決して自分の方だけを向いているわけではない。

永泉のまとう、かすかな移り香がいつも同じではないことが、かろうじて泰明を慰めていた。

 

「戻るぞ。冷える」

腕を下ろし、また、手をつなぐ。

永泉は、「はい」と答えてついてくる。

 

手のひらに、一杯分の幸せ。

 

胸が痛い。

 

幸せが、こんなにも、辛い。

 

呪いを失い、人の心を得て、初めて知る。

 

甘く、耐えがたい痛み。