いちゃいちゃしたい！
シンは、アスランの恋人だ。
恋人、なんだけど。
最近、ちょっと、物足りない。
アスランは、そんなふうに、思ってしまうのだった。
「なあ、シン」
デート、というか、部品屋やら工具屋やら巡りから帰って来て。
アスランの部屋に着くなり、玄関先で飛びかかられてぶん殴ってとりあえず居間のソファに落ち着いて。
ベット行きたさ満々なのを、ちょっと待てと押し留めて。
アスランは、珍しくシンと真正面から向き合った。
「え、なに？アスランさん」
キョトリと返した恋人に、アスランは少し据わった目をして低く聞いた。
「お前、俺とシたいだけなのか？」
「そんなワケないだろ！」
何てコト言うんだこの人！
シンは凄くびっくりした。
だって、だって。
シンはアスランが大好きなんだ。
大好きだから、シたいんだ。
ええっと・・・だから、あれ？
なんだかわからなくなってしまい、うーんうーんと考え出してしまったシンを、アスランは生暖かく見守った。
ここで急かしても、更に食い違うだけなのは、よく知っている。
でも。
「え！？アンタ、セックスするのイヤだった？」
そんな結論に達してしまったらしい恋人に、なんで俺、こんなんがいいんだろうと頭を抱えた。
察しがいいとか悪いとか、もうそんなレベルじゃない。
バカだこいつ。
「でも、いっつもすんごく気持ちよさそうですよね？指突っ込んだだけであんあん言って・・・・痛ってー！」
思わず飛び出した拳は、少年の頭にジャストミートした。
もの凄く、いい音がした。
「そんなことを大声で言うな！」
「アンタが振ったんだろアンタが！」
とりあえず怒鳴り合うのはいつものこと。
アスランは、据わった目をしてシンを睨んだ。
「シたいだけじゃ、ないんだな？」
「さっきからそう言ってんだろ！」
即座に吠え返したシンは、なんだかもう泣きそうだった。
なんで、そんなこと言うんだよ！
アスランさんのバカー！
そんなこんなでいっぱいいっぱいだったシンは、アスランの様子が少ぅし変わったことに、初めはあんまり気がつけなかった。
「・・・なら、その、何だ」
ふい、と、アスランがそっぽを向いてしまう。
こっちを向いていない緑の瞳は、じいっと見ても大丈夫だけど、なんだかやっぱり物足りない。
こっち、見ろよ、アスランさん。
「・・・・」
そっぽを向いたアスランが、なんにも言わないままなので、シンはちょっと不思議になった。
「・・・・？」
ぺこ、と首を傾げても、アスランはやっぱりなんにも言わない。
「・・・・・」
ちょっと赤いほっぺたとか、無意味に動く指先だとか、なんだか可愛いなぁと思いつつ。
それでもなんにも言わないアスランに、短気なシンはブチ切れた。
「さっさと言えよ！」
それとこれとは別なのだ。
それを聞いたアスランは、ぎいっとシンを睨みつけ、その視線だけで少年をびびくん！とさせてから、また、ふい、と視線を逸らして。
「・・・その、たまには、だな」
そこで、一回口を閉じて。
シンとは目を合わせずに。
「お前と、普通にいちゃいちゃしたいんだ」
そう、もごもごと、小さな声で、言った。
「・・・・・」
シンはなんにも言えなくなった。
「・・・・・」
アスランも、また、黙ってしまった。
「・・・・・・」
さっきよりも赤いぽっぺた。
ちょっと潤んだ緑の瞳。
むう、とつぐまれた唇。
もじもじと、膝の上で動く、長い指。
シンが、そんなものをじいっと見ているそのうちに。
「・・・言いたいことがあるならさっさと言え！」
沈黙に耐えきれなくなったのはアスランだった。
短気なのは、お互い様だ。
「アンタ、すっげー可愛い！！」
シンはすぐに、言いたいことを言った。
ただ、いつもと違うアスランに見とれていただけで、べつに、何か言いたかったわけでもなかったから、がばあっ！とそのまま飛びついた。
「だから・・・人の話を聞け！」
ばっこん、と、ちょっと本気で殴られて、シンは床に落っこちた。
落っこちて、そうして。
それでもめげずにまた飛びついて、ぎゅうっとアスランを抱きしめた。
「わかりました！いちゃいちゃしましょう！」
でも、いちゃいちゃするってどうしたらいいんだろう？
思いながら、とりあえずキスをして。
あっちこっちにキスをして。
アスランが髪を撫でてくるから、お返しにその指にもキスをして。
いい匂いのする喉元とか、もっとと思ってボタンを外して胸元とか。もっともっととお腹とか、脚とか。
いっぱいいっぱいキスをして。
それが、とっても気持ちよかったから、アスランもしたいようにさせてやって。
そうして、後は、いつもの夜。
変わらない二人なのだった。
シンは、アスランの恋人だ。
恋人、なんだけど。
最近ちょっと。
ちょっと、物足りない・・・っていうか。
「もしかして、俺は、贅沢なのか？」
ベッドの中でうすらぼんやりと、そう呟いたアスランに、シンはこくこく頷いた。
「あー、アスランさん贅沢ですよね。あれもこれもしろって！」
ばこん。
無理な姿勢でも、十分痛い拳に殴られた。
「・・・わかった」
アスランそう、低く言って。
「お前のせいで贅沢になったんだから、お前がちゃんと満足させろ！」
「は・・・はいっ！」
シンは、勢い良くアスランに飛びついて。
また、ばこんと殴られた。