いつまで経っても
首を傾げて髪の毛を拭く仕草が、なんだか凄く色っぽいと思った。
思ったらすぐに手が出て、でも、濡れた藍色の髪に触れると、アスランはもの凄く怪訝そうな顔をした。
「何だ？」
「あ、え、っと」
何でもないです。
そう言って手を引っ込めて。
引っ込めてから、違うじゃん！と思って、言ってみた。
「なんか、凄く色っぽいなって思ってさ」
「色っぽいって、お前な」
正直に言ったら、アスランがむくれた。
「しょうがないじゃんかよ。だってそう思っちゃったんだもん」
そう、むくれ返して。
シンはまた、アスランの髪に触れた。
二人で暮らし初めて、もうだいぶ経つ。
それでも時々、アスランはこうして、シンを魅了して。
そうして時々、つまらないことでケンカをする。
「だから、何だって」
「だから、色っぽいなって」
話が通じないのはもう慣れた。
だからシンは、半分タオルに埋まったままの、アスランの頬にキスをした。
言ってもわからないアスランは、そりゃあ行動に移したって分かってくれないときは分かってくれないけれど。
でも、平行線じゃなくなる。
「何だよ」
セリフはさっきとほとんど同じだけど、風呂に入ってたせいだけじゃなくて、ほっぺたが赤い。
声も、なんか、可愛い。
「アスランさんが色っぽかったら、キスしたいなとか思うじゃん」
むう、とアスランが唸った。
どうやら今日は、通じたらしい。
わしゃわしゃと乱暴に、今度は全然色っぽくなく髪の毛拭いて。
アスランは、タオルを首にかけた。
跳ねた髪が、色っぽくはなくなったけれども、今度はなんだか可愛くなった。
アスランが、いつもシンの癖毛を可愛いと言っては自分を怒らせていることなどすっかり忘れて、シンはちょっとぽうっとなった。
しかし幸い、それを口にしてしまう前に。
「俺は、お前が可愛いとキスしたくなるな」
頬と耳まで赤くしながら、でも、にこりともせずにそう言って。
アスランは、予備動作なしで、シンにキスをした。
「・・・っ、可愛いって言うな」
「可愛いだろ」
アスランが、ちょっと笑う。
シンが、凄くむくれる。
「・・・・可愛いとか、言えなくしてやる」
シンはそう言うと、タックルの要領で、アスランの体をベッドの上へ押し倒した。
「シーツが濡れる！馬鹿！」
とたんに蹴られて痛かったけれど、そこはぐっと我慢する。
「アスランさん、タオル」
「タオルより頭だ」
「じゃあ、こっちのタオル」
たまたま、側の椅子に掛かっていたタオルを取り上げると、「タオルじゃない！」と怒られた。
確かに、それはタオル生地のバスローブだった。
最近使ってないのに、なんでこんなとこに。
「いいでしょ、濡れないし」
「濡れなきゃいいってもんじゃない」
言いながら、アスランはシンの癖毛に指を突っ込んで。
ぎゅう、と引き寄せて、言った。
「お前のも濡れてるじゃないか」
「えー、乾いてますよ」
「じゃあこれで拭け」
アスランに引ったくられ、頭からばっさりと掛けられたバスローブは、何故だか、鉄と機械油の匂いがした。
「何なんですかこれ」
見れば、白かったはずのバスローブは、なんとなくに薄汚れて見える。
「製品の詰め物に使ったら、部品の詰め物で帰って来たんだ」
「何やってんだアンタ・・・」
マイクロユニット分野で、現代の名工とか言われている人の、その仕事は変なところでぞんざいだった。
「まあいいや」
本当にそれで髪を拭き始めたら始めたで、アスランはなんだか嫌な顔をした。
何なんだ。
でも、まあいいや、とすぐに切り替えて、シンはそのバスローブを、ぽいとまた椅子に放り投げた。
どうせ、後でシーツも洗濯だ。一緒に洗えばいいや。
「拭きました。していいですよね」
「そんなことは言っていない」
「えー、ダメですか？」
きゅうん、と、見えない耳尾が垂れるのが見えた。
この、いつまで経ってもかわいい顔に、アスランは弱い。
「・・・そんなことは、言ってない」
アジア系のシンは、いつまで経っても可愛くっていいな、とアスランは思う。
とたん、ぱあっと笑った可愛らしさといったらどうだ。
「アスランさん大好き！」
「現金な奴だな」
「うるさい」
うるさい口を、ちゅーっ、とキスで塞いで。
シンはいそいそと、アスランのパジャマを剥ぎにかかった。
髪と合わせた藍色のパジャマは、シンのプレゼントしたものだ。
アスランは色が白いから、濃い色のパジャマが凄く似合う。
あんまり似合うもののないアスランでも、ちゃんと、似合う。
でも、それを脱いだ後の方が、やっぱりアスランは似合うのだ。
「アスランさん、綺麗」
そう言ってその胸に口付けると、「お前も脱げ」と、パジャマ代わりのトレーナーを引っ張られた。
「はいはい」
「はいは一回」
「はーい」
子供のようなやり取りをして、ばっさりトレーナーを脱ぎ捨てる。
身長はアスランを追い越せなかったけれど、体重はちょっと追い越した。
家にこもって仕事をしているアスランよりも、シンの方がもう、逞しくなっているはずだった。
でも、続いてトレーナーのズボンとパンツを脱いだシンを見て、アスランはほんのりと嬉しそうに笑った。
「・・・やっぱりシンは、可愛いな」
「どこ見て言ってますか！？ドコ！？」
があっ！と吠えたシンをにこにこ見上げ、アスランは「全部かな？」と小首を傾げる。
「全部って、だから・・・まあいいや」
そこを突っ込んで、悲しい話になっても嫌なので黙る。
黙って、アスランにキスをする。
ちゅ、ちゅっ、と角度を変えて口付ければ、気持ちいいことに弱いアスランの体はくったりしてきて、そこでだいたいイイ感じになる。
「アスランさん、可愛い」
唇を離して、今度はほっぺたにキスをして。
気持ちのいい体のあちこちに手を滑らせて、しっとりした肌の感触を味わう。
アスランの体はどこもかしこも気持ちよくて、昔は凄くがっついてしまったけれど。
・・・今も、結構がっついちゃってるけれど。
それでも、こうしてお互いの肌の気持ちよさを、感じる余裕ができたって、凄いことなのだ。
「っ、シン・・・」
アスランの声が、甘くねだる。
「ここ？」
だからシンは、ちょっとイジワルをして、アスランの胸の先を、きゅう、と摘んだ。
とたん、アスランが「あんっ！」と鳴く。
鳴いてから、ぽかりと叩かれる。
「そこも、だけど。こら」
知ってるだろ、と、睨んでくる眼差しが、色っぽ過ぎて、困る。
「はーい」
ちゃんと一回で返事をしながら、シンは「そこも」に従って、胸にキスをしながら、アスランの脚を、ゆっくり広げた。
いきなりやると、殴られる。
いきなりでもゆっくりでも、シンは一緒だと思うんだけど、アスランには大違いらしい。
ゆっくり見えてくる脚の間は、確かにちょっとドキドキする。
これからアスランとするんだなって、じわじわ分かって、うきうきする。
アスランのものはもう立ち上がっていて、その奥もひくひくしていて、凄く可愛い。
「ええっと、ローションローション」
側の棚を見ないで漁ると、ことんと軽い音がして、ローションが床に落ちてしまった。
「あ、やべ。えっと」
おろおろするシンを見上げて、両足を大きく広げたまま、アスランはくすくすと笑った。
「いいから拾えよ」
「あー、うん」
バツが悪そうに脚から手を離し、転がってしまったローションを拾いに行くシンを眺めながら、アスランは緩む口元を押さえられない。
いつまで経っても可愛い、アスランの恋人。
なんて、愛しいんだろう。
「えっと、ごめんね、アスランさん」
失敗をして、叱られるのを待つ子犬のように、しょんぼりとしたシンに、アスランはまた、くすくすと笑って。
「いいから、来いよ」
言ってやると。
「はいっ！」
シンはなんだか勢い込んで、アスランの脚を大きく開いて。
ちょっと失敗したかな、と思ったアスランは、でも、すぐにローションまみれのシンの指に押し開かれて、まあいいや、と思い直した。
シンの指は、いつだって、気持ちがいい。
ゆっくりと奥まで入れ切って、それからあちこち探り回って。
アスランが気持ちよくなれるところを探して、探しながら思い出したように指を増やして。
イイ場所を見つけるとそこばかり弄るから、時々（拳で）たしなめてやって。
「ん・・・っ」
アスランの腰が揺れてきて、中の襞がゆるゆると指を包み込むようになれば、『もういいかな？まだかな？』と、ソワソワこっちを見てくるから、欲しいのを、ちょっと我慢するくらいで、「いいよ」と言ってやる。
すぐにあげたらダメなんだと、気がつくまでには随分かかった。
おかげで、アスランの可愛い恋人は、今もちょっと躾が甘いままだ。
「アスランさんっ！」
「だから、がっつくな！」
がばあ！とのし掛かって来ようとするのを、蹴り飛ばして大人しくさせて。
「普通にやれ、普通に」
「普通ってなんですかあ」
蹴られた鼻を赤くして、文句を言うシンは可愛い。
可愛いから、やっぱりどうしても、アスランはシンに甘くなってしまうのだ。
「がっつくなって言ってるだろ。・・・ほら」
自分から脚を開いて、シンを誘うアスランは色っぽい。
色っぽくて、それから、すっごいキレイだ。
だからシンはわたわたと、途中だったそこに、ローションを足して。
「ええっと、力、抜いててくださいね」
「わかってる」
いやらしく開いたすべすべの脚を、よいしょ、ともっと開かせて。
アスランに触れているだけで、ヤル気満々になっている自分をぴったりとそこに押し当てて。
「ん・・・・・っ」
ぬぅーっ、と、絶妙の力加減で絞られながら入るそこは、いつだってものすごく気持ちがいい。
でも、俺ばっか気持ちが良くてもダメなんだ。
アスランさんも、気持ちよくしてあげなくちゃ。
「ん、あ、アスランさん」
「んっ・・・」
ちょっぴり寄った藍色の眉は、痛いのか気持ちがいいのかわからないけれど。
「ここ？」
さっき、殴られるまで弄った場所に当たるように、角度を変えて押し込むと。
「ふぁっ！こら、ね、狙うな！」
アスランが焦ったように腰をよじって、また違うイイところに当たって、「ひんっ！」と言った。
「今のは、狙ってないから」
理不尽な文句を言われるより先にそう弁解して、シンはせっせと腰を使う。
使えばもっと気持ちよくなって、そうすればアスランも気持ちよくなって。
アスランが気持ちよくなると、そこがきゅうんと締まって、シンももっと気持ちよくなって。
「ア、スランさん、もう、ダメ」
「ん、ん、んんんっ・・・」
こくこくこく。
アスランが、何に頷いているのかよくわからない。
わからないけど、なんだかわかって。シンも、「うんっ」と頷いて。
「っ！・・・は、あ・・・・・・」
いっぱい擦ったアスランの中に、いっぱいいっぱい出してしまって。
「ば、か・・・・中で、出すな・・・・・・」
一緒にイったアスランが、最後の一滴まで絞ろうと、中をゆるゆる蠢かせながら抗議する。
「中に、欲しいくせに」
「そんな訳あるか！」
すぱーん！と頭をひっぱたかれたが、その弾みでまた深く刺さってしまって。アスランは勝手に、「あん」と鳴いた。
「あるでしょ、ほら」
ゆっくり抜くと、引き留めるようにさざめく中に、すぐさま深く突き込めば、シンの出したものとローションが混ざって、ぐちゅん、といやらしい音がした。
「気持ちいいって言ってる」
「言って、な・・・・」
まだ何か言ってる口を、一生懸命屈んで塞ぐ。
キスの最中も、なんだかもごもご言っていたけれど、アスランはすぐに、シンの舌を吸うのに夢中になった。
なんだか、赤ちゃんみたいで可愛いな。
そう思いながら、シンは、もっと。
もっとアスランを可愛くするために、一生懸命がんばった。
がんばるシンは、可愛くて。
アスランは、とっても、満足した。
アスランの髪に触れると、眠たそうな瞳がふいとシンを映して。
それから、ふんわりと笑ってくれる。
「アスランさんってさ」
それを嬉しく思いながら、シンはその髪をゆるゆると梳いた。
「髪の毛拭いてるの、色っぽいなって思ったけど、シてる時は可愛いんだよね」
「してる時に可愛いのは、お前だろ」
「可愛い言うな」
言い返すと、すぐにむくれるシンは、可愛くて。
可愛いけれど、そればっかりじゃあ可愛そうだなと思い直して。
「んー、でも、そうだな」
格好いいとか、セクシーだとか。
そんなことを言ってやろうと思って、口を開いたアスランは。
「うん、可愛いな」
そう、結局本音を漏らしてしまい、シンをじたじたさせたのだった。