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シンの探していた人は、やっぱりMS格納庫にいた。
妙にごついコードと工具を抱え、作業用クレーンで下りてくる人に駆け寄ると、アスランは「やあ」とだけ言って、さっさと工具を片付けに行ってしまう。
「あんた、ほんとにMS好きですよね」
とにかく追いかけてコードをひったくると、やっと振り向いてくれた。
「いや、特にMSが好きなわけじゃないんだが」
工具を仕舞って、コードを片付けてきたシンに礼を言って。
「機械が・・・好きだからな」
赤い、鋭い印象の機体を見上げる。
これも、機械のカタマリ。
最新の、最高の技術のカタマリ。
最も優れたそれは、まず、戦争に使われるから。
「だからMSパイロットになったんですか？」
「まさか」
アスランは首を振った。
藍色の髪が揺れると、かすかに機械油の匂いがする。
「ちゃんと、アカデミーも工科を受けたんだよ。技官になるつもりだったんだ。俺には、それしか出来ないと思っていたから」
伝説とさえ言われたトップガンのセリフとは思えず、シンは目を見張る。
「適性検査でパイロットの方が向いてるって言われて。前線に立つ方が、戦争の終結により何か出来るような気がして、転科したんだ。・・・今考えると、馬鹿な話さ」
「バカって」
どこか不満そうなシンの声に応え、アスランは、インパルスを指差した。
「これ一機で、戦局は変わる。それはお前の力であり、そしてこれを作った者たちの力だ。そういうことさ」
「でも、俺が乗るからこそ、あれだけのことができたんです」
パイロットとしての誇りを傷つけられ、シンは声を荒げた。
そうだ。最終的に、これを使って、命をかけて戦うのは俺なんだ。
「ああ、そうだな」
アスランは、インパルスを見上げたままだ。
「そうやって、すべてをパイロットに押し付けて・・・最終的に使ったのは俺じゃないと、言いたかったのかな」
なんだよ、コイツは。
パイロットのくせに。
しかも、ただのパイロットじゃない。伝説のエースパイロットのくせに。
「でも、あんたはパイロットだ」
強く言うと、アスランは以外にもあっさりと頷いた。
「ああ、そうだ。・・・MSパイロットになって良かったよ」
「そうでしょう？」
MSに乗るからこそ、この人は英雄と称えられた。
誰よりもMSを上手く操るからこそ、勲章を得て、特務隊に配属され。
そして今、シンと共に在るのだから。
シンは、嬉しくなってその人の腕に飛びついた。
アスランはそんなシンの様子に軽く笑う。
「シン、俺はたくさんのMSを見てきた。ZAFTのも、連合のもオーブのもだ」
「知ってます。乗ってたの、みんな最新鋭機だったって」
頷いたアスランは、それからシンに捕まっていない方の手を上げて、すっと自分のこめかみを指差した。
翠の瞳が、シンを映して瞬く。
「今、ここには、最高のMSの設計図が入ってる」
「え？」
笑顔。深い声。
それが、凍るように冷たい。
「俺なら、もっとエネルギー効率が良いジェネレーターを作ることができる。現在のVPS装甲よりも、エネルギー分散率を大幅に上げる理論がある。ビームライフルやビームサーベルにまわすエネルギーを本体から引くから、活動時間が短くなるし誘爆しやすくなるんだ。そんなものは外部から取り込めば良い。関節と制御ソフトに少し改良するだけで、反応速度が倍は上がる。量産の手立てもある。君のようなパイロットが乗れば、素晴らしい動きをするMSだ。しかし、一般のパイロットでも、それなり以上に戦果が上がる。もっと効率良く、殺し、破壊することが出来る」
シンを、見下ろしながら。
翠の瞳の青年は、淡々と、語る。
「そんなMSを、俺は作ることが出来る」
「アスラン、さん・・・・」
それは、どんな素晴らしいMSだろう。
しかし、シンの心は浮き立つどころか、どんどんと冷えていった。
アスランの眼差しが、シンを凍らせる。
「・・・もっとも、俺が技官だったらの話だ」
アスランは、再び自分の赤い機体を見上げ。
「パイロットになって良かった」
そう言って、シンの腕を振り払う。
「この手で行うことが、すべてだから」
その罪を、自身に刻むことが出来るから。
立ち去っていく赤い軍服を追う勇気が、シンにはなかった。
格納庫から出て行くその背を見送り、思わずインパルスを見上げる。
シンは、この機体のテストパイロットから専任になった。
技官とたくさん話もした。みんな、より良い方法があればすぐに飛びつく、強いMSを作るためなら、何でもするような人たちだった。
あの中に混じるアスランを想像しようとする。
でもそれは、まったく浮かばなくて。
代わりに、コックピットに着くあの人が思い浮かんだ。
なんだか、ほっとした。
そう、あの人はMSパイロットだ。
シンは、アスランが消えた扉に向かって駆け出した。
MSの操縦技術のことで、聞きたいことがあった。
この間のあの動きは、どうやったのかって。
だから、探していたのだ。
そう、あの人も俺も、MSパイロットなのだから。