欲しい
きい、と、かすかな音を立ててドアが開く。
その音に聞き耳を立てたシンは、それでも、一生懸命に寝たふりをした。
時間はもう深夜、ここでシンを起こしてしまったとなると、アスランは無駄に気に病むだろう。
一緒に暮らしているというのに、近頃、二人はすれ違いが続いていた。
艦隊所属のMSパイロットと技術部の研究者では、生活のリズムなど合わなくて当然なのだけれど。
ぎし、とベッドの沈む感覚と、ふわりと香ったアスランの匂い。
シャワーを浴びていたのは、音がしていたから知っている。
心臓がドキドキして、狸寝入りがバやしないかと、ちょっと焦った。
挙げ句に、耳元に湿った吐息がかかった。
遅れて感じる体温。
シンに触れない、ぎりぎりの距離で。
違う、触れてる。
髪の毛の先、アスランの吐息。
「ん・・・」
やばい、心臓バクハツしそう。
抱きつきたい。
抱きついて、キスして、それで。
それで・・・・
「・・・・・シン」
小さなちいさな、囁く声。
そこに滲む艶と、熱。
シンはたまらず目を開けて。
驚きに見開かれた、闇にも光る、グリーンアイズを、見上げて。
「えと、あの、おかえりなさい・・・・」
あんまりばつが悪かったせいか、漏れた声は情けなかった。
「・・・すまない、起こしたな」
それでも、そう言ったアスランがちゅっと軽くキスをくれたので、なんだかどうでも良くなった。
「ううん、寝てなかったし」
「なんだ、そうか」
怒られるかな、と思ったけれど、アスランはもうひとつキスをくれて、シンの髪の中に顔を突っ込んだ。
吐息が染みる。いい匂いがする。
ほんとやばい、勃ちそうだ。
「明日、早いのか？」
「いえ、昼からです」
「そうか・・・・」
すぐに顔は上げられて、ちゅ、ちゅっ、っとキスが降る。
ぺろりと唇を舐められて、思わずその舌を追う。
熱くて甘いその舌に、いつものようにかぶりついて。
「んっ・・・」
喉を鳴らしたアスランは、熱心にそれに応えてくれた。
「なら、シてもいいか？」
「え？」
ちょっと離れた唇が、小さく息を継ぐ間に、はっきりとそう言われて、シンは目を白黒させた。
だって、セックスするときには、いつだってシンが拝み倒してさせてもらうのだ。
アスランはそれを、仕方ないなと言って受け入れてくれるだけで。
なのに、今日は。
「凄く、お前が欲しい」
恋人にそう言われて、嬉しくない男なんかいない。
「はいっ！」
喜色満面、飛び起きようとしたシンは、しかし元エースパイロットの強力に、ぐいとばかりに押さえ込まれた。
「俺が欲しいんだ、俺がする」
「え、ええっ！」
妙に抑揚のないアスランの声が、なんだか怖い。
ぐいとパジャマのウエストを掴まれて、シンは思わず防御に回った。
ずるずると、ズボンを引き下ろされまいとする腕に、アスランは赤い唇でつい、と笑って。
「安心しろよ、入れさせろとかは言わないから」
「あ、はい。いやそうじゃなくて、あのっ！」
そんな心配はしていない。
アスランさん、文句ばっかり言う割には、俺の咥えてあんあん喘ぐの大好きだもの。
だからそうじゃなくて。
「あの、俺がしますから！」
「寝てろ」
「わー！」
力比べでは、シンは未だに、アスランにはかなわない。
無情にも引きずりおろされたパジャマにパンツ。
それなのに、その下のシンは、アスランの色香にすっかり参ってしまっていて。
「本当に・・・お前、元気だよな」
嬉しそうな声がしたのは、ぴこんと勃ったシンの真上だった。
ぎゃー！うわー！と、内心叫び散らしながら、アスランの頭をぐいぐい押し返そうとして、当然敵わず。
それをぱくんと頬張られて、びくんと背筋を震わせて。
「ちょっ、イっちゃったらどうするんですか！」
情けない叫びに、アスランはシンをくわえたまま、むーむーと意味不明のうめきを返した。
ちらりと上げられた視線が笑っている。
ムカつくけれど、それがものすごく色っぽい。
「マジ、ヤバイですって・・・っ！」
そんな目で見ないでください、頼むから。
シンのお願いを聞いてくれたのか、それと単にこれ以上必要がないと判断したのか。アスランはちゅぱ、と音を立ててソレを放して。
淫靡に濡れた口元を、ぐいとばかりに無造作にぬぐって。
シンがほっとしたのもつかの間、シンの足にまたがったまま、腰を上げて。シンのをさっきそうしたように、パジャマの下をずるりと下げた。
そうして、今さっき口を拭った指をぺろりと舐めると、片手はシーツに付いたまま、それを後ろに持っていって。
「ん・・・・」
「わーー！」
シンの位置からは見えないけれど、何をしてるのかくらいはわかる。
アスランさん、自分で・・・
きゅっと寄せられた眉に、薄く開かれた唇。
そこから、小さな喘ぎが漏れて。
自分でして、自分で感じているアスランの色気に、シンはごくりと生唾を飲んだ。
それから慌ててアスランの腕を掴み、ぐいぐいと引いてそれを阻止した。
「んっ・・・、こら、引っ張るな、危ないだろう」
腕を引いたときに、変なところを引っかけたのか、アスランが小さく呻いて抗議の声を上げる。
「アンタが余計なことするからでしょうが」
言って、そのまアスランを引き倒し、シンは一度、深呼吸をした。
落ち着け俺。
頑張れ俺！
いつになくやる気のアスランは色っぽすぎて、とにかくいろいろやばすぎる。
今だって、恨みががましげに見上げる瞳のその色だけで、なんかどうにかなりそうだ。
「俺が突っ込むんですから俺がするんです！」
それでも、そう高らかに宣言すると、白い脚に半端に引っかかっていたパジャマをさっくり取った。
「俺が欲しいから俺がするんだろ」
それでもまだぶつぶつと言っている唇に、ちゅ、とひとつ、キスを落として。
意外と大人しくしている脚を、ぐいと開いて。
「俺のがもっと欲しいです」
どこまでもやる気らしく、ふるりと勃ったアスランのものを、するりと撫でて、跳ねさせて。
「もっとって、どれくらい・・・」
薄い肉を割り開いて、自分で弄っていたそこが、どうなっているかを検分して。
「もっとって言ったらもっとです！」
「っ！」
思ったよりもほぐれていないそこを、ぺろりぺろりと舐めて濡らして、そうして、指を一本突っ込んで。
「ふ・・・っ」
そうすれば、そこはくいくいとシンの指に食らいついて。
うわぁ凄い欲しがられてる、と、シンはちょっと幸せになった。
「欲しい？アスランさん」
「だから、さっきからそう言って・・・・っ」
睨んでくるアスランがかわいい。
軽く揺するだけで、ゆるゆるとうごめいて絡みつく中がイヤラシイ。
少しイジワルして引っこ抜いて、アスランの手が伸びてきたところで、二本に増やしてまた突っ込む。
「ぅんっ」
「気持ちいい？」
「足りないんだこのバカ・・・っ」
うわぁ。
確かに、腰を揺らめかせるアスランの中は、熟れきった風情で絡み付いてはくるけれど。
「でもまだキツイですよ？」
入り口の方はそうもいかず、まだ、きゅうきゅうとシンの指に食いついている。
指もう一本くらいならいけるだろうけど、シンのものを入れるにはまだ早い。
そう思ったのに。
「もう、いいかげんにしろ・・・っ」
そう、低く凄んだアスランは、シンの腕を掴んで引っこ抜き、そのまま恋人の体を勢い良くひっくり返した。
「俺がやる」
緑の瞳を、乱れた髪越しにきらめかせて。
赤い唇をちいさく開いて。
いつものような、怒鳴り声じゃない。
低く低く、地を這うように。なのに、甘く色づいた声で。
そう言われて、シンの背筋をぞくりと何かが駆け上った。
しかも、アスランはシンのものをぐいと掴んで、その上に無造作に跨ったのだ。
わーっ！わーっ！わーーーっ！
シンが慌てる間もあればこそ、先端に濡れた感触がしたと思ったとたん、きつい輪を無理矢理くぐり抜けさせられて。
「痛っ・・・痛いってアスランさん！」
「我慢しろ・・・っ」
未だほぐれきっていないそこは、シンをぎゅうぎゅう締め付けて、痛いというかちょっとやばい。
でも。
ぽたりぽたりと落ちてくる汗に、シンはのし掛かるアスランを見上げた。
きつく寄せられた眉に、喘ぐ唇。
たぶんアスランさん、もっと痛い。
「アスランさん、無理しないでよ」
「お前が、悪い」
つぶやくように言うと、アスランはずずっと腰を落としきって、シンをそっくり咥え込んだ。
「く・・・・っ」
「ふ、わっ」
入り口はきつく絞られているけれど、中は熟れて吸い付いてくる。
そのギャップがたまらなくよくて、シンは思わず変な声を出して喘いでしまった。
シンが焦ってするときだって、こんなきつさは味わったことがない。
しかも、アスランは腰を折ってかがみ込み、シンの顔をのぞき込んできた。
甘い汗の匂いがする。
たぶん、凄んで見せているのだろうけれど、切なく溶けた瞳はいつもの、シンを飲んでいるとき特有のものだ。
「俺が、欲しいと言っているのに」
しかも、赤い唇がそう囁いて。
淫らな舌をひらめかせた。
「くれないお前が悪いんだ」
たまらず舌を差し出せば、すかさず気持ちいいキスをもらった。
今日のアスラン、キスが好きだな。
気持ち、いいな。
くちゅ、と、名残惜しげに唇が離れて、それから下肢をずるりと強い刺激が襲った。
アスランが腰を上げて、文字通りそこで、シンをしごき上げている。
「う、わっ」
しかもすぐさま腰を落として、たっぷりとシンを包み込んで。
「ん・・・んっ、あっ、はっ、あ・・・・くっ」
せっせと腰を動かして、シンを味わうアスランは、ものすごくものすごく色っぽい。
普段は頼んだってなかなか乗ってもらえないのに、今は恍惚とした表情で、シンの上で腰を振っているアスラン。
でも。
それでも。
「ご・・・、めんなさい、謝るからさあっ」
「あっ」
じたじたと暴れ出したシンに、思わぬところを抉られて、アスランはひとつ呻いてシンに座り込んだ状態で腰を止めた。
「こ・・・ら、動くな」
「動きます！俺が動きますから！」
アスランに乗ってもらえるのは凄く嬉しい、気持ちいい。
でも、それでも。
「俺にやらせてください！！」
この色っぽくてキレイな人と、やるならやっぱり自分でしたい。
俺が喘がせてイかせたい！
「・・・もう、焦らさないか」
上から降ってくるかすれ声。
そこに滲んだ甘えを無意識に感じ取り、シンは勢い込んで騒ぎ立てた。
「焦らしたんじゃなくって痛いんじゃないかって心配したんですよ！でももう大丈夫でしょ！」
シンの大きさに慣らされた入り口は、もう、いつもより少しきついくらいだ。
これなら、アスランもそうは痛くないだろう。
「・・・・・ん」
しぶしぶ、そんな風情で頷いて。
アスランは、ずる、と腰を上げた。
くちゅ、とイヤラシイ音とともに外に出されると、アスランの体温に馴染んだそれは、ひやりと冷やされて。
ぶる、と身を震わせて、それでもシンは、アスランの気が変わらないうちにとすぐさま乗っていた体を押し倒した。
「・・・どうしたんですか、今日は」
聞けば、ばつの悪そうな声が返ってくる。
「知るか。お前の頭見たら凄くヤりたくなったんだ」
それから、ぐいと引き寄せられて。
「焦らすなと、言っただろ」
「だから、じらしてんじゃなくて心配してるんだってば」
無理矢理シンを飲んだそこをを確認すると、血こそ出ていないけれど、やはり赤く傷んでいるようだった。
それなのに、その持ち主はそこを振って、淫らにシンを誘うのだ。
「こら・・・」
「わかってますって」
だからシンも、また、熱くぬかるんだそこへ、冷えきっていない自分を突き入れた。
「ふ・・・・っ」
「ん・・・気持ちい」
ぐちゃぐちゃとそこをかき回してやれば、アスランの腰がびくびく跳ねる。
それを押さえ込んで蹂躙するのは、たまらない、雄の快楽。
「あ・・・あ・・・あ・・・・あんっ・・・・」
「アスランさん、欲しかった？」
素直に喘ぐアスランを、楽しく見下ろしてそう囁く。
「だから、ずっと、そう言って・・・・っ」
睨み返すアスランの、瞳の光は欲に濡れて。
夜に白く浮かび上がる肌からは、シンを欲情させる、たまらなくいい匂いがして。
誘われるままに、シンはその体に溺れた。
とっても、とっても気持ちよかった。
「ほんとに、どうしちゃんったんですか、アンタ」
「だから、知るか」
同じベッドのその中で、毛布を奪って向けられたその背中に。
シンは、きゅう、と抱きついた。
「でも、俺嬉しかった」
「何が」
毛布越し、くぐもった声の子供っぽさに、くすりと笑って。
「アンタも俺のこと欲しがってくれてるんだって、凄い嬉しかった」
アスランは、それには答えなかった。
そのかわり、乱れた髪の後ろ頭を、ぐいぐいとシンにすり付けてくれたので。
シンは満足して、そのまま今日は寝ることにした。
明日は、朝一でシャワーを浴びなくちゃ。