日の光の中で、笑う花月が可愛くて。

可愛くて可愛くて可愛くて。

思わず、ぎゅうっと抱きしめたら、

「苦しいよ、十兵衛」

そう言いながら、やっぱり花月は笑っていた。

慌てて力を緩くすると、細い腕がオレの背中に回って、

「あったかいね、十兵衛」

と、また、笑う。

オレの守る花月を、オレの腕で抱きしめているのが嬉しくて。

オレの守る花月が、こんなに可愛いのが嬉しくて。

オレはまた、花月を強く抱きしめすぎて、笑う花月にまた文句を言われて。

今では、もう夢のような、日溜りの日々。

幸福な記憶。

目を覚ましたとき、いちばん初めに感じたのは、左手のあたたかさ。

続いて、全身の痛み。

「十兵衛・・・、目、覚めた？」

思わず握り返した力が伝わったのだろう。

目を開ける前に、そう問われる。

「・・・ああ」

目を開けると、さらり、と切り揃えられた黒髪が落ちるのが見えた。

そのひと筋が、不ぞろいに断ち切られている。

ビーストマスターの、鋭い爪の所業だった。

守れなかった、ひと筋の髪。

十兵衛は、そこだけを凝視する。

「なかなか起きないから、心配したよ。・・・あまり、無理はしないでくれ」

日など射さない、暗い部屋の中。

花月の表情は見えない。

「わかった」

答えると、胸から腹にかけてが更に痛んだ。

花月を背に庇い、受けた傷。

左手を十兵衛の手のひらに、右手をその傷の上に置いていた花月は、十兵衛の手を、一度だけ握ってから立ち上がった。

「朔羅に、何か食べやすいものを持ってきてもらおう。とりあえず、今日明日は大人しく寝ていること。・・・これは命令だ、十兵衛」

窓から漏れる、かすかな光に花月の瞳がちらりとひかる。

「・・・・・」

十兵衛は答えず、ただ、手の中に残った、細い指を握り締めた。

「・・・・痛いよ、十兵衛」

「すまない」

手を放せば、花月は去っていく。

ドアの閉じる音が、やけに遠くに聞こえた。

十兵衛は、ぎしぎしと軋む腕を上げ、手のひらを見つめる。

右手は、ざらりと冷たく乾いていたが、花月の握っていた左手は、しっとりと湿ってあたたかかった。

その左手を、握る。

残ったぬくもりは、懐かしい何かに似ていた。

幼い笑い声が、聞こえたような気がした。