平穏なとき
「あ・・・ぅ、ふ・・・・・っ」
ずるりと引き出され、思わずそれを追うように腰を突き出す。
すると、軽く笑われて、また奥まで突き上げられた。
「あっ・・・・」
大きく開かれた脚がびくりと震え、仰け反った拍子に浮き上がった胸の先端を、軽く齧られる。
「あ、あっ」
「すごいな、お前。こっちもエース級じゃん」
今度はリズミカルに攻め上げながら、ハイネは組み敷いた青年の耳元で囁いた。
「ば、か、なこと・・・ああん・・・」
翠の瞳に涙を溜めて、アスランはしかし後を続けられずに大きく喘ぐ。
「褒めてんだよ。な、イイか？」
ぐり、と感じるところを抉られて、きつくシーツを掴み締めながら、青年はこくこくと頷いた。
「あ、あ。いいっ・・・」
下からぐちゃぐちゃといやらしい音が体中に響き、締め付けるそこからの快感は、熱く背筋を焼く。
何よりも、藍色の髪を振り乱し、翠の瞳を潤ませた、この美しい青年を組み敷き、支配している感覚が、男の満足を存分に引き出す。
本当に、これほどとは思わなかったよ。
ハイネは心中ひとりごちると、共に極めるために激しく腰を使いだした。
「あっ、あっ、ああっ・・・」
体をいっぱいに引きつらせて、アスランが啼く。
その引き絞られるような感覚に、ハイネはその奥底で吐き出し、アスランも自らを犯す男の腹に、極めた証をぶちまけていた。
「こういうことも、上手いんだな、ハイネは」
やっと息の整ってきたアスランの呟きに、ハイネはまた、軽く笑う。
こういう笑い方が、まったく嫌味ではない。こういうところも凄いと思う。
「お前に言われたかないぜ。なんだよあの締め付け。思いっきり持っていかれたぞ」
「あれは・・・体が、勝手に」
もそもそと言って、シーツに顔を埋めるさまは、いつも見せている年不相応で不景気なツラよりも、ずっと可愛い。
ハイネはそう思って、藍色の髪をくしゃくしゃと撫でた。
「ヨかったぜ、アスラン」
「俺も、だよ」
ああ、なんて素直なんだ。
半ば感動しつつ、ハイネはうつ伏せに横たわったアスランの上に、ぎゅうっと体重をかけて乗った。
「・・・・ハイネ？」
「いや」
あたたかな肌に、安堵する。
品行方正を求められる自分たちだ。こんなときでも、その辺の女に手を出すわけにはいかないから。
「ありがとな」
「なにが？」
本気で怪訝そうな声。翠の瞳が、クエスチョンマークを浮かべてハイネを映す。
礼を言うのが馬鹿馬鹿しくなってくるけれど。
「慰めてくれたんだろ？」
言って、頬にキスをすると、少し赤くなった青年は、「そんなんじゃない」と言って寝返りを打った。
勢い、ハイネはその上からどかされる。
一緒に飲んだとき、部下が死んだことを話した。
その後ベッドに誘えば、この優しげな青年が乗ってくるだろうと、計算していなかったといえば嘘になる。
しかも彼は、想像以上に優しく、ハイネを慰めてくれた。
「俺が勝手に礼を言ってるだけだ、気にするな」
「気になる」
「だから、気にするな」
顔を見合わせ、どちらからともなく笑い合い。
その後、アスランはほつりと呟いた。
「オレも、人肌恋しかったから」
「ん〜、じゃ、やっぱ俺邪魔だったか？婚約者殿のが良かったろ」
品行方正といっても、婚約者ならセーフだろ。そう思っていると、アスランはふるふると首を振った。
「いや、彼女とはそんなんじゃない」
本気で慌てているさまに、何故だか可笑しくなった。
自分の前では、あんなに大胆に喘いでみせていたくせに。
女の子の話になるとソレかよ。
ハイネはまたくすくすと笑いながら、青年の髪をくしゃくしゃと乱した。
「？？」
困惑の表情を浮かべる、翠の瞳。
しかし、それはすぐに閉じて。
気持ちよさそうにしていた彼は、程なく寝息をたてはじめる。
無防備な寝顔に、また、笑って。
ハイネも、眠るアスランに軽くキスをしてから、その傍らに滑り込んで目を閉じた。
戦争の合い間の、平穏なとき。
その後に何が起ころうとも、それは、確かに存在した時間だった。