ハツカネズミの飼い主は
「あ、アッ・・・・」
いっそう艶やかな声を上げて達した人の中に、己の精を注ぎ込む。
桜色に染まった胸が荒く息を継ぎ、彼が感じた快楽の深さを思って、シンは思わず破顔した。
自失気味の瞳、震えながら喘ぐ唇、力を失って投げ出された、肢体。
戦いに出るときの、凛とした姿も綺麗で大好きだけれど、こんな無防備な姿はもっと、キレイで可愛くて仕方がない。
そのまま眠ってしまいそうな人の背を抱いて、何度も何度も口付けて、落ちそうな意識を繋ぎとめる。
わずかにむずかるようにして、それでもアスランは、シンの唇に応えてくれた。
「ん、ふ」
もう寝ないな、と確認して、唇を離す。
互いの間に銀色の糸が引いて、それをアスランの赤い舌が絡め取った。
そのさまはどうしようもなく淫靡で、誘われるようにシンはまた、口付けを繰り返す。
それに応え続けるアスランに満足し、シンは笑ってアスランに抱きつくように寝転んだ。
初めて会ったときから、魅かれていた。
一時反発もしたけれど、それでもやっぱり大好きで。
だからこうして抱き合えて、すごく、嬉しい。
ああでもアイツは。
なんだかあのときべったりに見えた、アイツは。
「アスハは・・・あんたがオレに抱かれてるって知ったら、どうするかな」
そう思うと、なんだかすごくいい気味だ。
「どうもしないだろ」
しかしアスランはあっさりと言って、唾液に光る口の端を拭った。
「そう、かな」
不満そうなシンに苦笑して、濡れた指で、シンの髪を撫でて。
「よく誤解されるんだがな、あいつは俺のこと、拾ったハツカネズミくらいにしか思ってないぞ？」
「なんですかハツカネズミって」
シンにはさっぱりわからない。
ハツカネズミって、アレだよな。実験とかに使う、マウス。
目の前の強くて綺麗な人を例えるには、ひどく不似合いな動物だ。
しかしアスランは、簡単にその理由を示してみせた。
「一度迷うと、ぐるぐるしてトツボにはまって、動けなくなるからな、俺は」
ハツカネズミが、本当にそういう生き物かは知らないんだが。
そう言って自嘲気味に笑う青年になんだかムカムカして、シンはきつい声を出した。
「随分役に立つハツカネズミがいたもんですね」
護衛はできる、MSの操縦はできる、隊の指揮もできる。
叱ってくれるし、褒めてくれるし、慰めてくれるし。
・・・・セックスだって、させてくれるし。
さっきまで散々シンを気持ちよくさせていた腰に腕を回し、それを確認するように、きゅっと抱きしめる。
「いい拾い物をしたくらいには、思ってくれてるみたいだがな」
それでも、嬉しそうに言うのは何故だろう。
「でも、あんたはアスハが好きに見える」
「好きっていうか・・・まあ、そうだな」
少し体を離して覗き込めば、ムカつくほど嬉しそうなアスランの笑顔。
「彼女は、俺の飼い主だから。好きに決まっている」
「飼い主って・・・」
一瞬アブナイ想像をしてしまい、シンは激しくうろたえた。
「俺は彼女に命を救われた。だから、俺は彼女のものだ」
そういう意味かとほっとしたが、よく考えると無茶苦茶なことに変わりはない。
「彼女が平和を望むから・・・何をしてでも、それを叶えたい。もともと俺の望みも、一緒だったしな」
変わらずシンの髪を撫でながら、アスランはシンに向けたままの瞳で、どこか遠くを見た。
彼が見ているのは、シンの知らない何か。
アスハに繋がる、何か。
「今、ここにいるのもアスハのため、ですか？」
それは、ものすごくムカつく。
「来たのは、そうだな。他に何も思いつかなくて」
アスランはまた嬉しそうに笑って。
ああああほんとーにムカつくっ！
もう一回啼かせてやろうかと身を起こしかけたとき、しかしアスランは、少し切なげに目を細めて呟いた。
「でも、離れないのは、お前のためかも、しれないな・・・・」
そんなこと言われたら、もう何もできない。
シンは、また眠たげに落ちてきたアスランの目蓋に口付けた。
それをおやすみのキスと取ったアスランは、そのまま眠りの底に沈んで行き。
その寝顔は、伝説のエースなどという名など、想像もできないほどにあどけなく可愛らしく、シンはそのさまを存分に堪能した。
ただ、命を救ったというだけで、このひとの飼い主になれるなら。
なら、オレもこのひとを救えばいい。
救えるくらい、強くなればいい。
決意も新たに、シンは眠るそのひとにキスをした。
それまで、待っててくださいね。
オレの大事なハツカネズミ。