『外』では、雨が降っているようだった。

柔らかくなった空気に溶け込む、この甘さは花の香か。

十兵衛は、薄暗い無限城の天井を見上げた。

花

その名を、その意味を持つ者のことを想う。

春に、花咲く

そんな当然のことすら、ここでは。

その想いを断ち切るように、十兵衛は歩き出す。

この先の部屋で、MAKUBEXが待っているはずだった。

花の面影。

それに寄せる想いは、変わらぬものと思っていた。

「貴様のことはこのオレが絶対に守ってやる」

しかし。

貴様の声も、忘れた。

「古風だなあ、十兵衛は・・・」

迷うことも、立ち止まることも。

もう、諦めた。

だから、十兵衛は進むことしかできない。

MAKUBEXの計算(カリキュレーション)が導く未来へ。

十兵衛も、そして花月もいない未来へ。

「飛針の十兵衛、そろそろキミの出番だよ？」

ああ

春よ

春よ、来い