夫婦
目が覚めると、まだ、シンがいた。
また、シンがいた。
当たり前だ、と思い至るまでに、少し、時間がかかった。
そうだ。
一週間前から、一緒に住み始めたのだから。
プロポーズは突然だった。
「俺と、結婚してください！」
そう、人目のある公園で叫ばれて、思わず殴り返してしまった。
「いっ・・・そうぽんぽん殴らないでくださいよ！それからちゃんと返事！返事ください！！」
それでも返事を聞いてくるあたり、シンも強くなった・・・というか、アスランに慣れたと言った方が良いものか。
アスランはその場でもう一発殴り、そうしてじたじた暴れるシンを物陰へ引きずり込んでから。
ＯＫをして、やったのだった。
同棲したら、いろいろめんどくさいことになるだろうというアスランの予測とは裏腹に、シンは結構しっかりしていた。
朝はご飯まで作ってくれるし、夜は連絡を取り合って、早く帰った方が作ろうと決めて、今のところちゃんと守っている。
引っ越しした時の部屋の片付け方から見て、散らかしても後でちゃんと片付けるタイプだ。きっと躾が良かったのだろう。
それに、シンはずっと一人でやってきたんだもんな。
めんどくさくなることを、半ば期待していた自分に気が付いて、アスランは少し、自己嫌悪に陥った。
それでも、帰りが遅ければ文句を言うし。
それから。
夜は、必ずヤろうとする。
最初のうちは、引っ越して疲れているからと言ってかわしたけれど、昨日はかわしきれずになだれ込んでしまった。
そうして、今日も。
シンの主張で、ベッドはひとつなのだ。シンに甘いアスランは、べったり懐かれて本気で強請られれば、なかなか突っぱねきれない。
のし掛かられて、キスされて。
嫌がって見せる気もすっかり失せたアスランは、シンのいいようにさせてやりながら、思う。
考えてみれば、２日続けてするのは初めてだ。
今日１日、とっぷり仕事に浸かっていたとはいえ、昨日の熱を覚えている体に、恋人の熱はしっくりと馴染んで。
でも、コレ続いたら持たないよなぁ、と、アスランは情緒なく思う。
それを敏感に感じ取ったのか、今度は胸の先にちゅうちゅうと吹い付いていたシンが顔を上げた。
「あ、なんか今イヤなこと考えた」
「なんでお前はそういうところだけ鋭いんだ・・・」
普段はてんでお子様なのに、と、続けなかったのはシンを慮った訳ではなく、ただ単に、ぺたりと腿を撫でられて、軽く息を詰めたから。
「なんでアンタはそこで認めちゃうんですか」
赤い瞳がきつくなると、なんだかとっても可愛いなぁと。
そんな全然関係ないことを考えながら、アスランはそこでもまた、真っ正直に答えてしまう。
「お前に嘘ついても仕方がないだろう」
「・・・・」
黙ってしまったシンに、アスランは首を傾げるが、少年はそれどころではない。
服を脱いで、脚を開いて。
シンの前に、全部曝して。
心まで、なんにも隠さないでくれる人。
「もうさあ」
やっと口を開いたシンは、自分を挟んで開かれていた膝の、裏に手を入れて更に大きく開かせた。
「アンタ、大好き」
大人しくされるがままにされているアスランは、それでもシンの視線の先を感じて、呆れたようにつぶやいた。
「・・・どこ見て言ってるんだ」
「アンタ見て言ってます」
シンを感じて、硬くなり始めているアスラン自身と、その奥の、シンを受け入れてくれるところ。
「この・・・・っ！」
シンがそこばかりを見ていると思ったのだろう、アスランは声を荒げると、大人しかった脚に力を入れるのだけれど。
「ん・・・・っ」
ぺろ、と先端を舐められて、そのまま下へ、更に奥へと舌を這わされて、結局力が抜けてしまう。
「かわいー」
ひくひくと震えてシンを待つ奥は、昨夜の余韻が残っているのか、既に赤く染まっている。
さっき舐めた胸の先だって、なんだかとっても赤かった。
それがなんだか嬉しくて、ぺろりぺろりとそこを舐めると。
「だから。そこ、舐めるな」
何故だかそれを嫌がるアスランが、ちょっと本気でじたじたしだすから。
「はいはい」
そうぞんざいに答えると、シンはぺろりと指先を舐め、ゆっくりとそれを、アスランの中へと埋めていく。
「んっ・・・」
「うわー、やらかい」
いつもなら、キツくて痛いくらいのアスランの中が、今日はあっと言う間にずるずるとシンの指を飲み込んで。
そうして、柔らかくそれを包んでうごめき出す。
「やっぱ、昨日シたばっかだからですか？」
「だ・・・まれっ！」
ごつんと拳でアタマを殴れば、何するんですかと赤い瞳が、ばっちり涙目で睨んでくる。
それがとっても可愛かったから。
アスランは、怒りを静めてやることにした。
「いいから、お前」
殴ったアタマを抱き寄せて。
ちょっと笑ってしまいながら。
「黙って、しろよ」
その艶やかな笑みに、シンは一瞬ぽかんと呆けて。
それから、こくこくと頷いて、アスランの体を開く作業を再開させた。
「・・・はい」
熱い熱いアスランのナカ。
シンを気持ちよくさせてくれる。
シンを受け入れてくれる、アスランのナカ。
そこをとっぷりと慣らしてあげて、もういい？と甘えた声で聞くと、アスランは緑の瞳をたっぷりと、気持ちいい涙で濡らして頷いた。
なんかもう。
「大好き」
思わず思ったまんまに声が出て、照れたらしいアスランがじたじたしたけれど、そんなとこも大好きだなぁと思いながら、シンはアスランのナカに入っていく。
「ん、あ・・・・っ」
アスランの背が大きく反って、甘い甘い声が上がる。
ずるずると、シンを飲んでいくそこ。
ああ、この感じは。
「アスランさんに、さ」
自然と、顔が笑ってしまう。
たまらない幸福感に、声が、笑ってしまう。
「昨日の俺、残ってる」
いつもよりも柔らかい、まだ、シンの形を覚えているナカ。
ここ、俺のだ、と、そう思うと、気持ちよさが倍になる。
しかも。
「昨日の、だけじゃないだろ。馬鹿」
そんなことを言った恋人は、ぎゅう、とシンにしがみついてきてくれるものだから。
うん。
昨日だけじゃない。
その前の、その前の、もっともっと前の、それこそ、はじめにシた時から。
ずっとずっと。
初めて会った時から、ゆっくりゆっくり、時間をかけて。
この人は、今はもうすっかり、シンのもの。
そうしてシンも、もちろん。
アスランの、もの。
「アスランさん、動くよ？」
「あ、あ。・・・あ・・・・・っ！」
頷きは、そのまま喘ぎになって。
すっかり慣れた恋人の、すっかり慣れた、一番気持ちいいやり方に、アスランはとろとろに溶けていく。
抱え込んだちいさな額にキスをすると、すぐに赤い瞳が上がって、もっともっとと欲しがるように口づけられた。
ああ、気持ちいいな。
シンが、一番、いいな。
そう思ったところで、いっそう深く、深く入られて。
アスランは、我慢しないで、イってしまうことに、決めた。
満足のいくセックスの翌朝は、何だか少し、目覚めが良い。
珍しくシンよりも早く目を覚ましたアスランは、それでも昨夜さんざん自分をむさぼってくれた少年の、好き放題に跳ねた髪を、軽く引っ張ってやった。
「う・・・ん・・・・・」
シンはそのくらいでは起きず、小さく唸って首をすくめる。
その様子がとても可愛かったので、アスランは、それで赦してやることにした。
目覚めは良いけれど、腰はだるい。
二日も続けてしたのだから、当然だ。
まったく、無茶しやがって。
ちいさくひとつ、ため息をついて、アスランは、もう、だいぶ見慣れたシンに寝顔を見下ろした。
でも、さ。
でも。
きっと、もっとずっと一緒にいれば、コイツも、そうして自分の気持ちも落ち着くのだろう。
そうしたら。
そうしたら、俺たち「夫婦」かな？
やはりどこかズレたことを思い、アスランは小さく微笑むと、のそりとベッドを這いだした。
可愛いかわいい「旦那様」に、朝食でも作ってやろうと、そう思いながら。