えいせんが、風邪をひいてしまいました。

やすあきは、こころもち耳をおっことして、おふとんにくるまったえいせんを、おみまいします。

このあいだは、ふわふわのゆきの上で、追いかけっこをしてあそびました。

やすあきは、たくさんてかげんをしてあげましたが、やすあきのしっぽを追いかけたえいせんは、ゆきまみれになってしまいました。

そのあとは、ぴかぴかのゆきを見ながらお話をしました。

えいせんは、お鼻とお耳を真っ赤にして、うれしそうにお話をしていました。

「・・・あれが、いけなかったのだな」

そういえば、えいせんはとてもさむそうにしていました。

えいせんは、やすあきよりも、よわいこねこなのでした。

それを忘れていたのは、やすあきのせきにんです。

やすあきは、なぁ、とないてえいせんの乾いたお鼻をなめました。

えいせんは、にぃ、とないておこたえしました。

それを聞いてから、やすあきはししょうにご相談するために、おうちへ帰りました。

「風病ならば、北山のてんぐが良い薬を持っているな。行ってみるか」

「はい、ありがとうございます。ししょう」

やすあきのししょうは、なんでも知っています。

やすあきがご相談すると、すぐにお答えをくださいました。

やすあきは、いそいでお仕事をおわらせてから、北山に向かいました。

このあいだまでつもっていたゆきは、すっかりとけて、地面がぬれているだけです。

やすあきは、その上をはしって行きました。

でも、北山に近づくうちに、すこしづつゆきがのこっているところがおおくなりました。

そうして、お山のふもとにつくころには、やすあきの背よりも、ふかくなってしまいました。

「・・・・」

やすあきは、考えました。

ちいさな体だから、ゆきに埋まってしまうのです。

おおきくなれば、よいのです。

やすあきは、にんげんに化けることにしました。

にんげんに化けることは、ほんとうは、しっぽがふたつに分かれるくらい、なが生きのねこにしかできないのです。

でも、やすあきは、ししょうの気をいただいているので、できるのです。

なので、あまり上手ではありません。

にんげんに化けたやすあきは、体のもようが上手くかくせません。どうしても、お顔がはんぶんしろくなってしまいます。

それでも、お山のてんぐに会いに行くのなら、もんだいありません。

やすあきは、きゅうにたかくなった目のたかさにくらくらしながら、それでもざくざくと北山のゆきをかきわけて、のぼって行きました。

お山のてんぐは、おおきなてんぐです。

にんげんに化けたやすあきでも、みあげてしまうくらい、おおきいのです。

そのてんぐをみあげて、やすあきは大事なこねこに、風邪をひかせてしまったことを話しました。

そうして、お薬をわけてほしいと、おねがいしました。

「お前が、大事な子などと言う日が来るとはなぁ。そのねこに会ってみたいぞ」

おおきなてんぐは、声もおおきいのです。

やすあきのお耳はびりびりして、にんげんに化けるじゅつがとけてしまいました。

「・・・・・・」

北山の、ふかいゆきの中にうまってしまったやすあきは、てんぐにねこづかみでもち上げてもらい、やっと息をすることができました。

「おまえにあうと、えいせんがおびえるから、やめろ」

おおきな体もおおきな声も、ちいさなえいせんはびっくりしてしまうでしょう。

それで、風邪がわるくなってしまったらたいへんです。

てんぐは、また、おおきな声でわらって、やすあきに、よくきくお薬をくださいました。

それから、お耳がびりびりして、じゅつが使えなくなったやすあきをねこづかみしたまま、ししょうのお屋敷まで、送ってくださいました。

てんぐのお薬は、とてもよくききました。

やすあきにお薬をもらった次の日には、元気になってお礼を言うことができました。

「ありがとうございます。やすあきどの。わざわざ、きたやままで、おくすりをとりにいってくださったのでしょう？」

「もんだいない」

やすあきは、えいせんのさくらいろのお鼻をなめました。

えいせんも、やすあきのほっぺたをなめました。

それから、なかよくおひるねをしました。

そして、なん日かたって、やすあきは風邪をひいてしまいました。

でも、てんぐのお薬と、こんじょうで、いちにちで治しました。

・・・もちろん、えいせんには、ないしょです。