えいせんとやすあきは、仲良しのねこです。

やすあきはお仕事をしていますが、ときどき時間をみつけて、内裏にいるえいせんに、会いにきてくださいます。

えいせんは、やすあきが大好きです。

やすあきは、強くて､格好よくて、とてもやさしいねこです。

ときどき、お花のお守りをもってきてくださいます。

お返しに、にょうぼうからもらったおやつをいっしょに食べて､ほっぺたをなめっこして、おひるねするのが、えいせんは、いちばん幸せです。

でも、このごろ少し、困ってしまうことがあるのです。

「えいせん」

今日も､やすあきどのが来てくださいました。

えいせんは、いつも、やすあきを待っているすのこの上で、お行儀よく､こんにちはをします。

「きてくださったのですね」

うれしくてうれしくて、えいせんはやすあきのほっぺたをいっぱいなめました。

すると、やすあきもえいせんのほっぺたを、なめてくださいました。

ざらざらとした赤い舌で、ほっぺたをなめてもらうだけで、えいせんは、ぽうっとしてしまいます。

でもでも。

えいせんは、あわてて前あしでおはなをおさえて、丸くなりました。

「どうした」

やすあきが、心配そうにのぞきこみます。

「な、なんでもありません」

おはなをおさえたまま、えいせんは答えます。

でも、えいせんのようすは、見るからにおかしいのです。

やすあきは、あむっ、と、えいせんの首にかみつきました。

もちろん、痛くないようにです。

「ふみゃぁ」

えいせんの体から力がぬけて、くにゃん、と、前あしが、おはなから、はなれました。

「いたいのか？」

ぺろん、と、えいせんのおはなをなめて、やすあきは聞きました。

よくみると、かわいいおはなが、まっ赤になっています。

でも、えいせんのおはなはすぐに赤くなってしまうので、いつもと何がちがうのか、やすあきにはわかりません。

「い、いたくは、ないです」

「では、どうした」

ぺろぺろ

おはなから、ほっぺたとみみの後ろまでをなめたやすあきは、また、えいせんの首をかみました。

あむあむ。

ふにゃぁ

えいせんは、首のうしろが、だめなのです。

あむあむされると、ふにゃぁになってしまうのです。

「みないでくださいぃ」

えいせんは、いっしょうけんめいおねがいしました。

「お、おはなが、あかくなってしまって、はずかしいのです」

先日、やすあきが帰ったあと、にょうぼうに、おはなが赤いと言われてしまったのです。

やすあきになめられると、えいせんのおはなは、すぐにまっ赤になってしまうというのです。

とてもとても、恥ずかしいのです。

だから、やすあきが来ると､えいせんはうれしいのに、困ってしまうのです。

「みぃぃ」

力が入らなくて、でもおはなを隠したくて､ぱたぱた動くえいせんの前あしを、やすあきは、ぐん、と踏んづけました。

それから、まっ赤になってしまったおはなを、また、ぺろぺろなめます。

「おまえのはなは、かわいいな」

やすあきは、言いました。

「さくらいろでも、あかくても、とてもかわいい」

えいせんは、ぜんぶがかわいいけれど、ちいさなおはなは､とくべつにかわいいと、やすあきは思いました。

「でも、でも、みっともないです」

えいせんは、うるうるの瞳で、やすあきを見上げました。

おはなも、みみの内側も､まっ赤っ赤です。

「ふむ、では」

それを見下ろして､やすあきは堂々と言いました。

「みっともないというのは、とてもかわいいものなのだな」

「み、みゃぁ」

恥ずかしくてうれしくてやすあきどのがすてきすぎて、えいせんは何がなんだかわからなくなってしまいました。

夕方､えいせんがあんまりおそいので、むかえにきたみかどは、首をかしげました。

「どうしたのだい？えいせん」

「みゃぁ」

えいせんは、ふにゃふにゃです。

みかどに、首をなでてもらって、えいせんはもっと、ふにゃあになってしまいます。

でも、みかどのふにゃあは、ほっとするふにゃあなのに、やすあきどののふにゃあは、どきどきのふにゃあなのです。

なぜでしょう？

えいせんは、みかどを見上げて、にゃあ、と聞いてみましたが､みかどはにこにこして、首をなでてくださるだけでした。