だいすき
二人で眠るとき、アスランはいつも、シンを深く抱き込んで、眠る。
シンだって、できれば大好きな人を抱いて眠りたいけど。
たくさん愛しんだ体を、包み込んで眠りたいけど。
わずかなはずなのに、確かにある体格差と、どんなに頑張っても、なかなか埋まらない腕力差と。
それから・・・彼の、必死なさまに、シンはどうしても負けてしまう。
だから、いつも。
アスランは、シンを守るように。
逃がさないというように、深く抱き込んで。
特に、セイバーが落とされてからは。
きつく、きつく。
俺が、あんたを守りたいんだけどな。
俺、逃げたりしないんだけどな。
そんな必死にしがみ付かなくたって、俺、あんたのものなんだけどな。
でも、この人は、言葉はわかってくれない。
シンだって、言葉は上手く使えない。
だけど。
丸められた背中に、腕を回して。
まだ、少しだけ早い鼓動を打つ胸に、頬をつけて。呟く。
「アスランさん」
「・・・・なんだ？」
緩く、ほどけた。今はもう、シンにしか聞くことのできない声。
切ないくらいに、優しい。
「大好き」
「・・・・・」
シンを抱きしめる力が、強くなった。
だから、ちゃんと伝わっていないのが、よくわかった。
悔しい。
そんなにきつくしなくたって、俺逃げないのに。
「もう、寝ろよ」
そっと言われて、髪にキスの感触があった。
大事にされてる。
それは痛いほどよくわかるのに、悲しい。
「明日に障るぞ」
「あんたが寝ろよ」
最近、ほとんど眠っていないのは、シンが一番良く知っている。
「ああ。寝るよ」
嘘ばっかり。
「あんたが寝なきゃ、俺も寝ませんからね」
意地っ張りだと、笑われるのを覚悟で。
馬鹿なこと言ってるんじゃないと、呆れられるの覚悟で。
「・・・・・」
しかし、アスランは言葉を失って。
それから、シンの髪の間で、ため息のように、名を呼んだ。
「シン」
聞きたくない、苦しそうな声。
聞きたくないけど。
嫌だけど。
それでも、今はもう、シンだけに、聞かせてくれる声で。
「君が、俺を撃つときには、間違いなく殺してくれ」
こんなことを言ってくるのも、たぶん、シンにだけで。
続く、優しいやさしい声も、もう、シンだけの。
「お前になら、できるだろう？」
思わず顔を上げる。
見上げた翡翠色の瞳が、きれいな水を湛えて揺れていた。
決してこぼれないその雫。
指を伸ばすと、目蓋が閉じる。その上を、そっとなぞって。
「ダメです」
「・・・何故」
「あんたが死ぬのは、俺の腕の中です」
そのほかの、どこで死ぬことも許さない。
「・・・・・」
シンを包む力が、ふぃ、と。緩んだ。
その隙を突いて。
体を、無理やりずり上げる。
少し高い位置にあった額に、自分のそれをすり寄せ。
背中にあった腕を、片方だけでも、肩へ。
いや、欲張って、首にまわして。
抱き込むことは無理でも。
せめて、抱きしめたいから。
「大好き」
再びの言葉に、上手く言えない気持ちを、ぜんぶ込める。
守ってやるから。
逃げないから。
・・・・側にいて、やるから。
ずっと。
死ぬまで。
「・・・・・」
やっぱり、アスランは、答えないけれど。
大人しく、シンの腕に収まって。
目蓋を閉じたまま。
シンに、答えないまま。
頼むから、そんなことを言わないでくれ。
期待してしまうから。
夢を見て、しまうから。
お前なら、俺を。
切り捨てないのかもしれないと、思ってしまうから。
だから。
だけど。
触れた唇。
そのぬくもりを、抱きしめて。
そのぬくもりに、包まれて。
「大好き」
今だけでいいから、俺を信じて。
俺に、抱きしめさせて。