大好き
笑った顔が好き。
深い湖みたいな、翠色の目が好き。
ぴこぴこはねた、青い髪が好き。
俺の髪やほっぺたを撫でてくれる、長い指が好き。
抱き締めてくれる、あったかい腕が好き。
俺、あんたが。
大好き。
青い髪を撫でると、くすぐったそうに笑って、アスランはシンの頭を撫でてくれた。
その、笑んだ唇のかたち。
目元のやわらかさ。
触れた指の、心地よさ。
たまらなくなって、ぎゅうっと抱きつく。
腕いっぱいの、手応え。
腕いっぱいの、アスランさん。
大好きな人の、大好きな体。
「うー」
思わず唸ったシンに、アスランも、声を立てて笑った。
「若いなぁ、お前」
「あんたはなんでそんなにフケてんですか」
「フケてるって・・・」
あ、絶句した。
それから、何か考えて。
落ち込んだ。
「フケてるか？」
「え、あ、フケてるっていうか、その、あんま若者らしくないっていうか」
「そうか」
あ、もっと落ち込んだ。
「ちが・・・っ、年寄りくさいとか、そういうんじゃなくて」
更にトドメを刺しながら、シンはわたわたと弁解する。
「なんか、その余裕ぶってんのが気に食わないっていうか！」
「気に食わない？」
ああこんどは、翠の双眸が剣呑に光った。
落ち込んでるよりいいけど、怖ぇ！
でも！
「だって！俺ばっかりあんたのこと好きみたいで！」
叫んだシンは、そのままばたりとアスランを押し倒した。
いまだ官舎住まいのアスランの部屋は、ベッドと机しかない。
自然、ベッドに並んで座っていたのだ。
そうなったらもう、こうなるのは当然で。
だから、若いとか言われる筋合いはないはずだ！
「お前な・・・・・」
ぼやいたアスランの唇を、シンは、キスでふさいだ。
本当は、もっと声が聞きたいけれど。
でも、「若い」シンは、それだけじゃ足りない。
口の中、いっぱい舐めて、まるで獣のようなキスをしながら、恋人の体をまさぐる。
服の上からでもわかる、しなやかな体。
シンを欲情させて。
気持ちよくさせてくれる。
「うーーー」
長いキスが終わるなり、また唸ったシンを見上げて、アスランはそっと目を細めた。
獣欲に濡れた、赤い瞳。
荒げられた吐息。
深いキスが終わったばかりの唇からは、唾液が一筋、落ちてきて。
今から、自分を貪るだろう若い獣の姿に、アスランは深く陶酔のため息をつく。
お前ばかりが、俺のことを好きだって？
何を、馬鹿なことを言っているのか、この子供は。
「シン」
それを言ってやろうと口を開くと、馬鹿な子供は聞かないとばかりにアスランの服を剥ぎ取りだした。
「こらシン・・・・がっつくな！」
「あんたいるのにそれ無理です！ああもう！」
喚いたシンは、半ばまで引き摺り下ろした下着から覗いたアスランのものに、いきなりがふりと噛み付いた。
「っん！」
もちろん、歯を立てるようなことはしない。
ただ、口いっぱいのそれを、くちゅくちゅとしゃぶって。
ちゅうちゅう吸って。
たっぷり、味わって。
「こ、ら・・・っ、あっ！」
いやらしくのたうって、シンの頬を挟む内腿の感触とか。
鼻先をくすぐる、甘い肌の匂いとか。
上がる、艶やかな声を香も、たっぷりと、感じて。
「お前・・・なぁっ！」
半端に服を引っ掛けたまま、はぁはぁと喘ぐ恋人の姿を、荒い息と共に見下ろして。
「だって・・・・！」
「だってじゃない！」
アスランは、膝に引っかかっていた下着とスラックスを自分で蹴り落とした。
曝された長い脚に、思わずまた、喉が鳴る。
「がっつくなと言っているだろう。俺だって、お前を・・・・その」
この期に及んでうっかり照れてしまい、アスランはその先を言いそびれた。
「だから無理だってば！」
シンはアスランの体を組み敷いて、喚きながら喉元にキスを落とした。
アスランのこと、大好き過ぎて。
もう、どこから愛していいかわからない。
たくし上げられていたシャツを手探りで脱がせて。
緩く上下するなめらかな胸の先端を、きゅううきゅうと吸う。
「んっ」
いっそう激しく跳ねる胸。
これ、気持ちいいんだ。
もう、大好き。
「アスラン、さん・・・・」
「わかった、から・・・・っ！濡らせ馬鹿っ！」
とにかく落ち着かせなければと思ったアスランは、それでも繊細な場所に無造作に触れられて悲鳴を上げた。
「ぅわ、ごめんなさい！えっと」
さすがに、そのままするのはまずいとわかっているシンは、慌ててそこから手を引いた。
そうして、勝手知ったる恋人の部屋の、勝手知ったるベッドサイドの引き出しを開けた。
中には、ローションやらコンドームやらが無造作に突っ込んである。
すべて、シンのためのものだ。
それを思って、なんだか嬉しくなって。
掴み出した小さな瓶を開け、シンはへらりと締まりのない笑みをこぼす。
「・・・何、笑ってるんだ」
なんだか不機嫌な、恋人の声。・
「いえ。・・・・あんた、俺のもんだなって思って」
「失言多いぞお前・・・」
「え、今のもダメ？」
ローションをそこに垂らされて、その冷たさにびくりと身を竦ませたアスランは。
甘く艶めいた翠の瞳で、年下の恋人をちらりと睨み上げた。
腰にクる視線。
ゾクゾクする。
「お前が、俺の、だろう？」
アスランを喰らう、可愛いケモノ。
お前が、俺も、モノ。
その視線に晒された少年は、それはそれは可愛らしく、びくんと竦みあがり。
そうして。
「はいっ！」
勢い良く頷いて、アスランの中へ入ろうとして、思い切り蹴られた。
「だから慣らせこの馬鹿！」
「だから蹴んないでくださいよ！」
「蹴らなきゃ入れてただろうお前！」
「ちゃんと慣らしますよ」
ローションにまみれた指に、ぐいぐいと侵入って来られて。アスランは、そのままシンにしがみ付いた。
慣れた体は、恋人の指をあっさりと許し。
その狭い襞に、迎え入れる。
「っ、あ・・・・・っ」
「気持ちいい？ここ」
「んっ・・・・そ、こ、じゃな・・・・あんっ！」
「あ、ここだ」
アスランの感じる場所を探し出し、そこをぐいぐいと攻めながら、同時に、増やした指の背で、入り口をこじ開ける。
とにかく早くこの人と繋がるために、シンが考え出した方法。
少年だって、学習しているのだ。
「だから、がっつくな・・・急ぎ過ぎ、だ」
性急に求められるのも、アスランは嫌いではないけれど。
「でも、ほら。もうこんなにぐちゃぐちゃだし」
「ローションのせいだ、馬鹿」
何度も馬鹿呼ばわりされてムッとしたシンは、ぐい、と奥まで指を突っ込んだ。
「はんっ！」
震える腰。押さえ込んだ脚が跳ね上がる。
やっぱり、この人、俺のだ。
シンのために準備された、シンのための、ごちそう。
ずるりと指を引き抜くと、文句を言っていたはずのアスランが、シンを迎え入れるために、自分から脚を開いてそのいやらしく濡れた場所をあらわにしてくれた。
欲しがってくれている。
その思いが、若い雄を加速させる。
シンはわたわたと手間取りながら、すっかり猛っていた自分のものを取り出すと、アスランの腰を抱え上げた。
「あ・・・っ」
ずる、と。
まだ少し硬いそこへと、侵入される快感。
狭い穴いっぱいにシンを感じながら、アスランは甘い陶酔と共に、腰を揺すった。
雄を味わう無意識の動き。
それに、煽られる。
「アスラン、さんっ・・・・」
奥まで届き切ったとたん、息つく間もなく引き抜かれ。
きつく締め付けて留めようとする、内の動きまでが、少年を煽って。
「は・・・っ、シン・・・っ」
たっぷりと注がれたローションの滑りを借りて、初めから激しく恋人を貪る少年の動きに、アスランもまた、どうしようもなく溺れて、果てた。
笑った顔が好き。
深い湖みたいな、翠色の目が好き。
ぴこぴこはねた、青い髪が好き。
俺の髪やほっぺたを撫でてくれる、長い指が好き。
抱き締めてくれる、あったかい腕が好き。
俺、あんたが。
大好き。
とろりと眠たげな恋人の、大好きなところを数えながら。
大好きなところに触れながら、満足しきった少年は、幸せの中で呟いた。
「俺、あんたの？」
「ああ」
応えた声が、少し擦れているのは、彼が眠たいからだけじゃない。
シンの、せいだ。
それに、にんまり笑って。
「それで、あんた、俺のだよね」
「・・・・ああ」
望んだ答えに嬉しくなって、シンは恋人の胸に頬をすり寄せた。
甘い汗の匂い。
「あんた、大好き」
思ったことが、そのまま声に出てしまい、頬に触れた胸が、ふるふると震えるのがわかった。
笑ってる。
悔しいけれど、それも何だかくすぐったくて。
シンはそのまま、きゅうきゅうとアスランにしがみ付いた。
「俺、さ。あんたの笑った顔が好き。あんたの目が好き。髪が好き。指が好き。あったかい腕が好き。・・・俺、あんたが大好き」
「・・・・そうか」
応えが、一拍遅れた。
体温が跳ね上がって、頬に触れた肌が、赤く染まった。
あ、照れてる。
可愛い。
そんな様子に笑いながら、シンは更に言葉を重ねた。
「あんたは、俺のどこが好き？」
言いながら、きっと照れ隠しに怒られる、と予想して、シンは引き剥がされないようにとしがみ付く力を強くした。
でも。
「・・・・そうだな」
でもアスランは、そのままシンの髪をくしゃくしゃと撫でてくれた。
シンの大好きな、アスランの手。
「可愛い、ところかな」
アスランの大好きな、可愛いケモノ。
黒い毛並みと、熱い体。
紅い瞳を、持っている。
可愛い、仔。
「かわっ・・・何が！ドコが！？」
何かを勘違いしたらしい少年に、くすくすと笑って。
「そういうところが、だよ」
可愛がるように、赤くなった頬を撫でてやる。
「だから、何がーーー！！」
アスランの、可愛いケモノがまたひとつ吠えて。
くすくすと、笑う声に、重なった。