馬鹿者同志
「花月の奴、異様にお前に懐いていないか？」
無限城、MAKUBEXの仕事部屋。
なにせ「警護担当」なもので、襲撃やら身内の揉め事やらがなければ、俊樹も十兵衛もここにいることが多い。
「そしてお前は花月から一歩引いている。絶対におかしい」
力説する俊樹に視線さえ向けず、（だって見えない）十兵衛は一言で答えた。
「そうか」
俊樹にもわかるほどに、今の自分と花月はおかしいのか。
心なしか十兵衛の肩が落ちているが、頭に血が上り気味の俊樹は気づかない。
「何があったんだ、一体」
「貴様には関係ない」
「なんだと！」
「うるさいよ俊樹！」
「「・・・・・」」
少年王に一喝されて、黙り込む大男二人。
しかし俊樹の立ち直りは早い。
何故なら、それは花月に関係することだから。
「で、何があったんだ。貴様はオレを共に花月を守る仲間だと言ったな。ならば、関係なくもないだろう」
「小賢しくなったな貴様・・・・」
前はもっと馬鹿だったように思うが。
そう言われては仕方がない。
十兵衛は、ILの一件のことを、馬鹿正直に話して聞かせたのだった。
それに対する俊樹の感想は、一言。
「馬鹿か、お前らは」
確かに自分でも馬鹿だとは思う。が。
「俺はともかく、花月は馬鹿ではないぞ」
あれよりも頭がいい奴なぞ、十兵衛はMAKUBEXしか知らない。
「ああわかったとりあえずお前は馬鹿だ」
大人しく身を引く覚悟を決めてみれば、なんなんだこの古風な幼馴染同士は。
無駄に疲れた気分で、俊樹は十兵衛の肩を叩く。
「なあ、筧」
「なんだ」
「とりあえず仕事はオレがやる。お前は花月のところへ行ってこい」
「何故だ」
この大馬鹿野郎。
「でないとオレが情けないんだ、いいから行ってその距離縮めてこい！」
「だからうるさいってば俊樹！」
何気に機嫌が悪そうな少年王に向き直り、十兵衛の休暇交渉に挑む俊樹の背中には。
誰にも見えない、『貧乏籤』の文字が、見事に大書きにされているようだった。