ばかばかｖ
誕生日になにが欲しいかと聞けば、「アンタ」とか言われるのはわかっている。
しかし、自分にプレゼントを選ぶ才能がないことも、アスランはここ数年で、ちゃんと学習していた。
イベントごとにプレゼントをねだるシンは可愛いし、シンの方からもちゃんと用意してくれているのだから、用意するのはやぶさかではない。
ていうか、楽しい。
でも、ハロは３個までは喜ばれたけど、４個目からはなんかちょっと微妙な顔された。
服は着てもらえた試しはないし、小物類も、つけているのはあまり見ない。
唯一間違いがないのは食べ物なのだけれど、アスランはできれば、何か残るものをシンにあげたいのだ。
シンの誕生日は近い。
プレゼントは決まらない。
悩みに悩んだアスランは・・・ああそうだ、と、いいことを思いついた。
「だからイザーク、プレゼント選ぶの付き合ってくれ」
久しぶりにプラントに来たアスランに、呼び出されて来てみれば、いきなりそんな用事でイザークは吹いた。
「バカかキサマは！？」
意を決して頼んだのに、いきなり罵倒されてアスランはむくれた。
「いきなりバカって何だよ」
「バカにバカと言って何が悪い。・・・くそ」
イザークにしてみれば、自分を振って他の男を選んだ奴に、その男へのプレゼントを一緒に選べと言われているのだ。腹を立てる権利は当然ある。
しかし、目の前でむくれているアスランには、当然そんな意識はない。
忘れてるな。
忘れてるだろ。
じとり、とアスランを睨んでも、むくれつつもソワソワしているのは、腹の立つことにただの恋する男だ。
イザークは、もうほとんどヤケになった。
「去年は何をやった」
試しに聞いてみれば。
「チョコバー１箱」
そんな答えが返ってきて。
「バカだキサマは！！」
そう、怒鳴り返さずにはいられない。
馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、まさかそこまで馬鹿だったとは。
「でも、結構喜んでくれたんだぞ？」
ああそうだろうよと吐き捨てて、イザークは深く、ため息をついた。
これはたぶん、考えるだけ無駄だ。
「俺が選べば、小僧がむくれる。やめておけ」
「え、何で」
キョトンとするアスランに、イザークは思わず怒鳴り返した。
「キサマにプレゼントを選ぶ能力がないことを一番知っているのは誰だ！？」
「ええっと・・・イザーク？」
「バカモノ！」
なんでそこで俺が出る！
いやまあ、確かにそうかも知れないが！！
「小僧に決まってるだろうが！誰に選ばせたとか騒がれてとばっちりを食うのは御免だと言っているんだ！」
シンの趣味をよく知らないイザークでも、時計や財布などの無難なプレゼントはいくらでも思いつくし、そこそこ喜びそうなデザインを選ぶことはできるだろう。
しかし、そのセンスは明らかにアスランの選んだものではあり得なくなるし（同じだったら嫌だ）、そうすれば誰が選んだかくらいは、あの小僧でもだいたい想像がつくだろう。
俺か、フリーダムか。後はせいぜいディアッカか。イザークにだって、それくらいしか思いつかない。
そんなイザークの心中など知らず、えー、と、全然わかっていない顔で不満げにしているアスランに、なんでこんなのに惚れたんだと頭を抱えたが。
ふと思いついて、深々とため息をつきつつ言ってやった。
「わかった、ひとつ知恵を貸してやる」
ぱっ、とアスランが顔を上げた。
なんか凄くいい笑顔だった。
ちょっと殴りたい。
「小僧のことだ、何が欲しいか聞けば、キサマと答えるだろうな」
「なんでイザークが知ってんだよ」
「誰でもわかるわ！」
あんなに単純な人間は見たことがない。
あんなに単純で、馬鹿で、思いこんだら他に何もなくなって・・・純粋で。
だから、こいつはあの小僧を選んだのだと。
思えばもう、ため息しか出てこなかった。
シンの誕生日は、シンの希望で二人きりで過ごした。
祝ってやるという同僚に、恋人と過ごすんだと言ってめちゃくちゃ羨ましがられたと嬉しげに言ったシンはとても可愛くて、アスランは思わずぎゅっとしてキスしてやっていた。
「誕生日おめでとう、シン」
そう言うと、シンは本当に嬉しそうに笑ってくれて。それがアスランには嬉しくて。
二人で食事をして、いちゃいちゃして。
お約束みたいに順番にシャワーを浴びて、シンがベッドでどきどきしながら待っていると、後から浴びたアスランが、濡れた髪を拭きながら出て来たところでどきどきが最高潮になった。
しかも。
「えっと、プレゼントなんだけどな」
なんだかちょっとはにかみながら、大好きなアスランが、もの凄く色っぽい仕草で、バスローブの前をおずおずと開けた。
「こういうのは・・・どうだ？」
バスローブの下から出てきたのは、いつもの綺麗な裸体の上に、いつもキッチンでつけているのと、色違いのエプロンをつけた姿だった。
いわゆる、裸エプロンだ。
シンの口がカクンと開いた。
いつものエプロンはシンが選んだもので、アイボリーの生地にトマトケチャップが付いて落ちなくて、でもそれが可愛いとか本気で思っているのだけれど。
白い肌に、赤い生地のエプロン一枚。
形がいつもと同じなぶん、それはなんだか余計にエロく見えて。
「すっげえ・・・嬉しい、です」
うわぁ。
シンは思った。
アスランが、プレゼントのセンスゼロなのは、シンだってよくよく知っている。
だから、ばかみたいに考えて、きっと変な雑誌でも見てコレが出てきたのは、なんだかとっても想像がつく。
ばかばかしい。
すっげーばかばかしいけど。
一周回ってすげーいい。
ばかばかしいとこがすっげーアスランさんでエロくていい！
イザークとしては、もっとエロい格好はいくらでも思いつくのだが、このオーソドックスさとばかばかしさなら、アスランの頭から出てもおかしくはない。
そう思ってのアドバイスで、実際、シンもそれを疑わなかった。
あまりのばかばかしさと、いつもの店で買ったとしか思えない、同じ型のエプロンなのが、それを裏付けていたのだけれど。
しかし。
「よかった！」
アスランは、にっこりと破顔して。
「イザークに相談した甲斐があったな！」
「・・・アンタって人はーー！！」
そこで何でシンが怒ったのか、アスランはとうとう気づかなくて。
それでも、最後にはもの凄く楽しんでくれたみたいだから。
まあいいやって、思って。
「ああこれ、おまえへのプレゼントだから」
コトが終わって、結局最後には引っぺがされたエプロンを拾いながら、アスランは言った。
「して欲しいときは、いつでも言えよ？」
そんな嬉しい気遣いも、（元）恋敵の入れ知恵かと思うと、なんだか泣きたくなるシンだった。