朝ごはんのその前に
ベッドに座り込んで、シャワーを浴びるアスランを待つ間、シンは自分の手を握ったり開いたりして眺めていた。
この手が。
卵割ったりするのが、良かったんだってさ。
特別器用な方ではないけれど、特別不器用でもない。
でも、簡単な食事くらいは作れるし、昔はよく潰してしまった卵だって、慣れれば綺麗に割るくらいはできる。
それが、男前だったんだってさ。
「えへ」
思わず洩れた笑みのだらしなさを、もちろんシンは自覚していない。
「なんて顔してるんだ、お前」
だから、髪から雫を落としたままのアスランに、ドアを開けるなりそう指摘されても、シンには何のことだかさっぱりわからなかった。
「なんて顔って？」
「凄く・・・ヤニ下がった顔してる」
自分で言い出したくせに、ひどく言いにくそうにするアスランに、シンのだらしない笑みが深くなった。
こういう時のアスランは、凄く、すごく可愛らしい。
「アンタのこと考えてたんだから、当たり前ですよ」
「何なんだ、それは」
「だって、男前って・・・ぶは」
つかつかと歩み寄ったアスランに、掴み上げた枕をぶつけられて、シンの呼吸は一瞬詰まった。
更に、枕をどかしたとたん、ぎらぎら光る緑の瞳に覗き込まれて、やっとできた息を呑む。
「もう言うな」
「でも・・・」
「でもじゃない」
その声は、怒りを装ってはいたけれど、要は恥ずかしいだけなんだとシンだってわかる。
でも、そっか。そうだよな。
男前なら、ここは大人になって引いてあげないと。
「わかりました」
「わかったって顔してないぞ」
「どんな顔？」
「だから・・・・ああもういい！」
アスランはそこでぐい、とシンの髪を掴み締め、背中を屈めて唇を寄せた。
シンは腕を伸ばしてその背を捕らえて、キスの主導権を取ることに集中する。
「んっ・・・ふ」
一生懸命アスランの舌を追って、失敗して。腹いせに、口蓋の下、弱いところをしつこく舐めて。
抗議のように舌を噛まれ、でもそれが気持ちよくて、悔しくて。
キスの主導は諦めて。
代わりに、抱いた背中を軽く引いて、それをベッドの上にひっくり返す。
「いきなりか」
「いいじゃないですか」
「いいけどな」
「あ、なんかムカつく」
言いながらも、何故だかしっかりと着込まれたパジャマのボタンを外し、まだ湯の匂いのする肌に、頬擦りして。
「うー、アスランさぁん・・・・」
思わず洩れた声は、とっぷりと甘えに満ちていて、アスランはくすくすと笑みをこぼした。
「笑わないでくださいよ」
横隔膜の震えを直接頬で感じ取り、シンはむくれた声を出す。
それがまた可笑しくて、笑って。
「だって、お前、可愛い」
「えー」
がばりと顔を上げると、シンは寝転がったアスランの、甘い笑みの乗った瞳を覗き込んだ。
ああ畜生、やっぱ綺麗だ大好きだと思いながら。
「でもさ、普通、こういう時のが男前っぽいって思いませんか？」
だって俺、アンタのこと抱くんだよ？なんでそれで可愛くなるワケ？
思いながら、アスランが男前だと言ってくれた指で、その頬を撫でて髪を梳いた。
でも、その不満そうなシンの顔は、更になんだか可愛くて、可愛くて。
「そうか？・・・・今、お前凄く可愛いぞ？」
アスランの言葉に、シンはその胸の上へとばったりと突っ伏してしまった。
「可愛いって・・・・なんで・・・・？」
男のコカンに関わるー。それを言うなら沽券だ。沽券ってナニ？自分で調べろ馬鹿。
むぐむぐと言い合いながら、それでもシンはアスランのパジャマの上を剥ぎ、ズボンを引き摺り下ろして下着に触れた。
「それでもアンタ、俺で感じるんだろ？」
下着に隠されたそれは、既に張りはじめて、外気とシンの目に曝されると、ぴくんと震えて大きくなった。
「それは・・・・そうだが」
アスランの、うるさい口が口ごもる。
それに、えへへ、と笑って。
邪魔な下着も取り払い、それでもソレにすぐには触れず、なめらかな内股に唇を滑らせて。
「んっ・・・」
ささやかな愛撫に身を震わせるアスランに気を良くしながら、付け根近くに残った昨日の跡を、せっせとすべて上書きして。
「お、前。そこばっかり・・・」
焦れたアスランに髪を掴まれると、顔を上げたシンは腕を伸ばして胸の先に触れた。
「こっちも？」
「違・・・っ」
違う、と言いながら、アスランの胸は堅くしこり、きゅ、と摘むと体が震えて。足の間に顔を埋めたシンの頬が、ソレと腿に挟まれて。
「アンタさ、今すっげーイヤラシイんだけど」
わかってる？と聞けば、馬鹿野郎と返される。
その声が、色っぽくかすれてかなりキた。
この人は、声のひとつで、シンの体も支配する。
「誰が馬鹿ですかぁ」
「お前だおま・・・っ！」
アスランが言い切る前に、頬に当たったソレをはくんと咥えた。
初めてのときは戸惑ったものだったけれど、今はどうすればいいかもうわかっている。
どうすればアスランが喜ぶかも、ちゃんと。
「んぁ・・・っ、ふ。シ、ン・・・・」
髪を掴んだままの、アスランの指に力がこもった。
イテテ、と思ったけれど、シンはちゃんと我慢した。
だってこれ、アスランさんが感じてくれてる証拠だもの。
「ん、ん・・・・っく、シン、も、離せ」
「むーむぁーぐー」
いーやーだー、と、ニュアンスだけ伝えて、シンはそれを、深く深く咥え込む。
離せってことは、イきそうってことだろ。だったらイかせてあげなくちゃ。
「んーｖ」
「こ、のっ！」
仕返しのように、逆に喉の奥に突っ込まれた。
やば、と思ったとたんに吐き出される。
慌てて喉を絞めたのは、悲しい馴れのなせる業だ。うっかり吸い込むとかなり苦しい。何度もやられてもう懲りた。
「ん、っく」
「飲むな！」
でも、このやり取りは何故だかお互い懲りることがない。
「いいじゃないですか、ほらほら、苦みばしったオトナの味」
「冗談でも言うな！」
「なんでー」
むくれた声を出しながらも、シンは少し嬉しそうだ。
だって、こういう時のアスランは、色っぽくて可愛らしい。
それに。
「じゃ、こっち」
シンの体の分だけ、開かれた脚。
放ったばかりで濡れたものと、滑らかな腿と、その奥の陰り。
見えそうで見えないそれがソソって、かなりいい眺めなんだけど。
片足取って、膝の裏まで撫で上げて。そのまま掴んで開かせると、あらわになる、蕾。
やっぱり見えてもいい眺め。イヤラシくって、でも、やっぱなんか綺麗で。
「舐めるなよ」
「わかってますって」
先制されて、頷いて。ヘッドボートの上の箱から、常備しているジェルを取る。
好奇心いっぱいのシンが買ってくるせいで、毎回モノが違うそれは、今はアンプル状のものだった。ボトルよりも割高だけれど、アンプルごと手で温めて使えるから、結構いいなと思っている。
冷たいまんま使ったら、この人すげえ怒るんだ。
「んっ・・・」
とろ、と、指を伝わせてソコを濡らして。
まず初めは、周りから、ゆっくりと。
誘うように腰が揺れたら、指を入れてもいいって合図。これを守らないと、蹴り飛ばされる。
やる時は、蹴られてもやるけどね。
「はー、ナカ、あったかい」
「言うなと、何度・・・」
「うん、ごめん」
きゅうきゅうきつい入り口も、入れてしまえば柔らかい。
せっせと指を動かせば、その入り口も、緩やかにほぐれてきて。
指にまとわり付く、心地よい襞のぬめりとぬくもり。
そこに入る快感を思いながら、シンは指を増やして準備を進める。
「ふ、ぅ、んっ、シ、ン・・・・」
やがて中が熱くうねって、あんなにきつかった入り口が、シンの指でいっぱいに広がるようになった頃。
アスランがちいさく呻いて、シンの名を、呼んだ。
緑の瞳が細められ、しかし淫蕩にきらめいて。
赤い唇が、もう一度、シンの先を、促す。
「シン、もう、来い」
主導権、取られっ放しなのはわかってる。
だから可愛いって言われるんだってことも、たぶん。
それでも、このアスランの媚態に敵う奴なんかいないと、シンは思う。
負け惜しみなんかじゃない。絶対。
「わかって、ますって」
応えた声は、みっともなく上ずっていた。
それでもシンは唾を飲んで、アスランの脚を抱えなおす。
素直に開かれた両脚の間には、後ろの刺激で立ち上がったものと、暴かれた蕾が良く見えて。
シンはそこに、ガマンを重ねていたものを押し付けて。
ゆっくりと、中に割って入る。
「っ、く・・・・」
「ふ、・・・ぅ」
行為に慣れたそこは、まるでバターにナイフを入れた時のような、適度な抵抗と心地よい滑りでシンを受け入れて。
一息で奥まで入りきったシンは、そこで深く息をついた。
「きもちいー」
「だ、から、いちいち言うなっ」
「だって、アンタん中、すっげー気持ちいいんですもん」
柔らかな肉が熱くシンを包んで、入り口は、きゅうきゅうと根元を締め付けて。
ゆっくりと引き抜いてやれば、熱い襞が、シンを追うようにまとわり付き、入り口近くで浅く抜き差しすれば、その締め付けに息が上がった。
「あ、んっ、う、ふ・・・っ」
その上、ぐちゃぐちゃと濡れた音と、甘い喘ぎが耳をくすぐる。
ちょっとヤバイな、と、シンは思った。
早くももう、イきそうだ。
「アスランさん、一緒にイく？」
せめて諸共、と思っても、そんな思考は年上の恋人にはお見通しで。
「先に、イっていいぞ？」
「うー、ごめんなさい」
謝ったのは、先にイってしまうことと、あと。
「こ、ら！馬鹿！抜・・・・っ！」
ずる、と奥深くまで侵入られて、アスランの背がびくんと反った。
シーツを掴む指が、シンの肩にかかる。
しかし、それ以上のアクションを起こされる前に。
「っ！・・・ふー・・・・」
「いきなりナカで出すな！」
アスランがじたじたと暴れると、中にいるシンにまで響いて、嬉しいんだか辛いんだかわからない刺激に、シンは軽く眉をひそめる。
「いつだって最後にはぐちゃぐちゃじゃないですか」
「だから！最初から・・・っぐ！」
あんまりアスランがうるさいものだからシンはそのまま深く角度をつけて中をえぐって。
跳ねる腰を両手で掴み、黙れとばかりに激しく腰を使い出す。
一度イったものは、まだ硬さと強さを失わず、しかし一度イっているので余裕がある。
「あ・・・っ、く、こ、の、っ！のや、ア、ああっ・・・・・・」
抗議混じりの喘ぎ声は、しかし、すぐに甘く蕩けて。
中を抉るシンの動きに、腰を揺すって合わせながら、アスランは、腕を伸ばしてシンを求めた。
その仕草に、赤い瞳がにこりと笑う。
アスランの大好きな、可愛い可愛いシンの笑み。
こういう時のが男前？馬鹿なことを言うんじゃない。
やっぱりお前、可愛いじゃないかと、そんな笑顔に満足しながら。
アスランは、その手に応えたシンに、深く深く抱き込まれて。
後は、恋人のくれる快楽に、堕ちるだけ。
可愛いこの子に、堕ちるだけだった。