甘い夜
汗に湿った肌の感触さえ、愛しいと思うのは何故だろう。
まだ息の整わないアスランの、喉に、肩に、唇に。
何度も口付けながら、シンは繋がっていた時よりも、その体をいっそう深く抱きしめた。
「ん・・・シン？」
もうだいぶ眠いのだろうアスランの、かすかな吐息が頬にかかる。
このまま、眠らせてあげたいけれど。
とろりと見上げる翠の瞳を、もっと、見ていたいとも、思う。
「まだ、いいぞ？」
くったりと落ちていたアスランの手が、するりとシンの背にまわった。
そうして、汗ばんだ背をいとおしげに撫でてくれる。
この人、は。時々、こうやってどこまでもシンを甘やかしてくれる。
そうしてシンは、それにその腕に溺れることしかできない。
「うん・・・もっと、欲しい」
もっと、もっと、あんたが欲しい。
もっと、ぜんぶ、欲しい。
シーツの上に投げ出された体。
闇に溶ける藍の髪。
シンを甘やかせてくれる長い腕。
ずっと、シンを見ていてくれた、翠の瞳。
「あんたのこと、ぜんぶ、欲しいよ」
こんな言葉じゃ足りない。
なんて言ったらいいんだろう。
ほとほとと、赤い瞳から涙が落ちて。
それを、しなやかな指が拭ってくれた。
「俺は、お前のものだよ、シン」
拒絶され反発され撃ち落された。
それでも、この子に手を伸ばすことをやめられなかった。
その執着に、恋という名が付いたとき、アスランの世界は劇的に変わった。
その世界の中心に、シンがいた。
だから。
アスランは、シンを抱きしめる。
他に方法を知らないから。
シンの欲しいものを全部あげて、彼を幸せにしてあげたい。
いつも、子供のように泣いているシンを慰めて、
泣かなくていいよと、言ってあげたい。
「あんた・・・どれだけ俺のこと、甘やかせてくれるんですか」
腕の中の少年が、そう呟く。
それにアスランは小さく笑った。
「お前が甘えたいだけ、かな」
アスランの長い指が、シンの髪を撫でる。
それはそれは、いとおしそうに。
この腕は、確かに。
シンが甘えたいだけ、甘やかせてくれるだろう。
「そんな・・・甘やかされたら、俺、ダメになりますよ」
シンの声には力がない。
この腕に甘やかされて、泥沼のように溺れたい。
ダメに、なりたい。
シンは、アスランの肩に頬をすり寄せた。
欲をかきたてる甘い匂いが、その肌から立ち上り。
それを、いっぱいに吸い込んだシンは、そこにかふりと噛み付いた。
口の中に、アスランの味。
それから、鉄の。
慌てて、離して。
「これくらいで・・・ダメになるわけないだろう、お前が」
頬に触れんばかりの位置で、震える喉からの声を聞いた。
やさしい手が、何度も、何度も。
シンの髪を撫でてくれる。
シンの欲しいものを、たくさん、くれる。
大好きなアスラン。
「それに、お前に厳しくしたら逆効果だって、さすがに俺も学んだんだよ」
「なんですか、それ・・・・」
言って。
シンはシーツに腕を付いて身を起こし、笑みを形作った赤い唇に、キスをした。
気持ちいいキス。
それから、手のひらで今までシンを抱いてくれていた胸から、腹へとするりと撫でた。
そうして、どちらのものとも知れない体液でしとどに濡れそぼった足を、ぺたりと掴んだ。
「まだ、いいって言いましたよね」
「ああ。・・・・おいで」
自分から腰を上げてくれたアスランの、艶やかな仕草にくらくらする。
「アスラン、さん・・・・」
大好き。
大好きな、大好きなひと。
この人と、繋がる幸福。
再び押し入った中は熱く、しかしやさしくシンを包み込み。
あとはただ、洩れる吐息が睦言の代わり。
ただ、ただ。
甘い夜。