暁七ツ
首筋に吸いつく、濡れた感触。
裾を割った大きな手のひら。
背中に感じる、熱い体温。
それらすべてに満足し、アスランは、ほう・・・と吐息をついた。
仕舞い続きで、ろくにかまってもらえなかったのだ。もっと拗ねてやっても良かったのだが、コトに持ち込まれればこちらの負けだ。
力の抜けきった手足では、殴ろうが蹴ろうが話にならない。
だから、喉元に埋められた銀色の頭をかき回し、その感触にさえ感じながら、恨めしげな声だけを上げた。
「焦れるくらいなら、こんなに間をあけるなよ・・・」
いつもよりも性急な手のひらは、もう、内腿の敏感な場所をたどっている。
「焦れているのはキサマだろうが」
そのまま下腹へと無遠慮に手を差し込み、既に硬さを持ち始めているものを、捕まえられる。
「んっ・・・」
腰を揺らし、小さく喘いだアスランをあざ笑うように、イザークは一度捕まえたそれを放り出し、股下を膝裏まで、するりと撫で下ろした。
「あんっ」
ただそれだけのことで、高い声が上がる。
広い肩にこすりつけられた藍色の髪が、さやさやとささやかな音を立てた。
「んっ・・・の・・・・・」
何か仕返しをしてやりたいが、アスランの体は、もう、イザークの手の内だ。
赤い着物の上で、花魁の白い脚が、踊る。
そのまま、脹ら脛を包んだ右手とは別に、左手が緩んだ襟元から、胸元へと差し込まれる。
「や・・・・んっ」
こちらも、迷わず胸の感じるところ、ふっくりと赤く立った先端を、指の腹でこねまわす。
手のひらに押し包んだ脹ら脛がぴんと張り、そのまま、快楽にあらがうようにじたじたと暴れ出すさまを楽しみながら、イザークはまた、舌と唇とで、首筋から耳朶、涙目で睨んでくる目元へと愛撫を落とした。
「イ、ザークぅ」
緑の瞳が瞬いて、紅潮した頬が涙に濡れた。
「どうした」
しかしイザークはニヤリと笑い、核心を避けた愛撫を重ねている。
焦れているだの何だのと、コイツが言うから悪いのだ。
コイツがねだって来るまでは、決して触ってやるものか。
子供じみた意地だとわかってはいるが、それを通そうとしているのは、自分が実は、コイツに甘えているせいだと知っている。
もちろん、絶対に言わないが。
そう思い、ニヤリと口元を歪めたイザークは、鳩尾から臍のあたりまで。
つうっと落とした指をそこで止めると、焦れた腰がゆるん、と揺れて、勃ったそれが、ふるん、と揺れた。
「は、やく、しろよ」
袖を掴んだ指が震えている。
その、さやかな刺激を楽しみながら、イザークは意地の悪い声を出す。
「何を、だ？」
「だから、はやく、」
間髪入れずに返った声は、いったん途切れて。
そうして、かすれた響きで、続けた。
「入れろって・・・っ」
ああコイツは、と思うのは、こういう時だ。
男なら、すっかりいきり立った前をどうにかして欲しがるだろうに。
それなのに、大舞の花魁、アスラン・ザラは、浮かせた腰を、イザークのそこにこすりつけるようにして、淫らにねだる。
「それがものを頼む態度か？」
「金払ってるくせに！」
「ああそうだな」
「っ、だ、もうっ！」
しおらしいおねだりを期待したわけではなかったが、次のアスランの行動に、さすがのイザークも意表をつかれた。
客の腕に、すっかり預けられていたはずの花魁の体が、出来立てのばねのように跳ね上がり。
飛んできた肘を避けようと、とっさに退がったイザークは、それが牽制だったと気づいたその瞬間には、退がった勢いのまま、突かれて床に倒され、縫い止められた。
「お前なんか、大人しくしてろ！」
声とともに、腰に重み。
乗り上がった花魁の、赤い着物と必死の瞳が視界に映る。
「誰がするかー！」
じったんばったん。
もともと、力の抜けている体。
慌てて跳ね退け、床に敷き込みなおしたが、かなり焦った。
驚いた。
「入れてやるから、感謝しろ！」
憤りを込めてそう叫ぶと、緑の瞳が力いっぱい睨み返す。
「だからさっさっと・・・・あ、あん！」
蹴りを封じるために押さえ込んだ長い脚を、掴んでなんとか押し開き。
濡らしもしない人差し指を、深々と狭間に埋め込むと。
そこは、何の抵抗もなくイザークの指を受け入れて。熱い襞がもっと、とばかりに絡み付いて離れない。
「・・・わかった」
そんなに言うなら犯ってやる、とばかりに、イザークは乱暴に中をかきまわし。
「や、あんっ！」
可愛い声を上げた花魁の、長い脚が腰に絡みついてくる様に苦笑しながら、指を引き抜いたそこに、自分のものをあてがった。
そうして、まるで、吸い付くような反応を見せるそこに、深々と、差し込んでやる。
「あ、あ・・・・っ」
待ち望んでいた熱い楔を、慣らしの足りないそこは、それでも嬉しげに包み込んだ。
「イ、ザー・・・・っ」
大きく喘ぐ白い胸。
その先の赤みを軽く吸ってやると、それだけでアスランは中をさざめかせ、腰を揺らしてよがり泣いた。
「あ・・・・やだっ」
「何が、嫌だ？」
感じやすい胸をつついてやりながら、ゆっくりと引き抜き、そうして花魁が体をわななかせたところで、また、奥まで突き刺していく。
「あ、んっ」
焦らすような攻め方が、こういう時には一番効く。
藍色の髪を振り乱し、白い頬を紅潮させながら、快楽に耐えるアスランは、たとえようもなく美しい。
「フ、ン・・・」
余裕ぶって笑って見せたが、イザークも、早くこの体の中に出したくてたまらない。
たまらない、が。
「仕舞いにした分も、たっぷり可愛がってやるさ」
それが、男の心意気というものなのだ。
「あ、ああ・・・っ！」
花魁の声がまた、高く高く、上がった。
くうくうと、客を放って寝こける花魁の寝顔を肴に、イザークは杯を傾ける。
さっさと身請けされてくれさえすれば、互いにこうも間が空くことはないというのに。
そんな意地も可愛いと思う時点で、既に惚れ負けているという自覚はあるのだが、その辺りは、まあイザークの意地だ。相手に見せるつもりはない。
だから。
すっかり寝入った恋人の、まだ、赤みを残した耳朶にささやきかける。
「さっさと嫁に来い、馬鹿者」
むにゃむにゃと、寝言か寝息かわからない声を漏らして。
花魁はただ、眠りをむさぼっていた。