私の中には、何もない。

この器が形作られたときから、私は道具だった。

師匠の余剰な陰の気を受け、行使する。それが私のすべてだ。

ならば。

これは、一体なんなのだ。

それは、不条理なほどに、何もできない存在だった。

美しく弱く、ただ、力のみを湛える存在。

呆れることさえない。

ただ、不思議な存在(もの)。

それが、言った言葉。

「泰明殿はそのままで十分です」

器としてしか存在できぬ泰明を、そのまま認めた。

肯定、された。

自分の中に、こんな揺らぎがあることを、泰明は初めて知った。

何故だか、どこかで見た小さな花を、思った。

私の中には、何も、ないのだ。

私は空ろの存在なのだ。

いや、存在ですらないのやも知れぬ、

どこで見たのかも思い出せぬ、あの花のようなものだ。

花の、ことならば。

あれは興味をもつやも知れぬ。

ならば、

あの花のことは、永泉に聞いてみれば良いのだろう。

その姿かたち、そして色だけは、明確に記憶しているのだから。

そうして、その花の存在と共に。

私は、確かに肯定される。

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