赤い花
「ん」
出会い頭に、いきなりしおれかけた赤い花を一本突き出され、アスランは途方にくれた。
「何だ？これ」
「何って、見りゃわかるでしょう、花ですよ」
「いや、それはわかるけど。だから何で花？」
シンのすることは、いつでも唐突で。
出会ってだいぶ経ったけれど、今でも、アスランを驚かせる。
「だって、恋人にプレゼントなら花だろうって、ルナが」
「プレゼント？」
いつも以上にぶっきらぼうなのは、どうやら「プレゼントを渡す」と言う行為の、照れ隠しのため。
それはわかったけれど、アスランにはそれをもらう謂れがわからない。
「あんた今日誕生日でしょうが！」
とうとうキレたシンの言葉に、アスランはやっと得心がいって、頷いた。
「ああ・・・」
「ホントは、もっと綺麗なのいっぱいあげたいんですけど、知ったの昨日で。・・・なんで教えてくれなかったんですか」
「自分でも忘れてたんだ。教えられるわけがないだろう」
「〜〜〜〜」
なんともいえない目をして、アスランをじっとりと睨む、シンの赤い瞳。
それに良く似た、赤い花。
「ありがとう。嬉しいよ」
受け取った花を、大事に手に取り。アスランは、本当に嬉しそうに微笑んだ。
シンは思わずそれに見とれ、それからぎゅうっと、空になった手のひらを握り締めた。
「決めた。来年は、あんたの誕生日にいーっぱい、花、あげます」
「楽しみにしてる」
それは、互いに確証のない約束だった。
一年後、どちらかが、もしくはふたりともが、いなくなっている。
そんなこと、当然、考えられることだったけれど。
それでも、今だけは。
そんな未来を、信じて。
「一年経ったら、きっと、戦争終わってますよね。・・・てか、終わらせます。そしたら花なんかいっぱい買えますね」
「終戦で失業したら、買えないかも知れないぞ？」
「うわなんですかそれ、あんたが言うとシャレんなんないですよ」
「大丈夫だよ、お前ひとりくらい養えるから」
「なんであんたに養ってもらわなくちゃいけないんですか・・・！」
一年後、平和になった、夢を見る。
それは例えば、野原いっぱいの、赤い花のように。
きれいに微笑むあなたのように。
とても、とても。
うつくしいものであると、シンは、信じた。